日本から遠く離れた北極圏は、一つの大きな塊(シート)となった海氷に覆われる北極海が大半を占め、そこにロシアや米国、カナダや北欧諸国といった北極海沿岸国の一部の陸地と、グリーンランド(デンマーク領)などの大小様々な島々で構成されている。
この北極圏で日本が今後取り組むべき課題と施策について、笹川平和財団海洋政策研究所などが事務局を務める「北極の未来に関する研究会」が昨年11月、14ページにわたる報告書を作成。今年1月25日に日本政府へ政策提言として提出した。この報告書で、次のように記載された北極圏の温暖化の現状は、衝撃的だった。
「北極域は、地球平均の2倍以上の速さで温暖化が進んでおり、過去35年間で夏季の海氷面積が3分の2に減少するなど、地球温暖化の影響が最も顕著に表れている地域である。(中略)このまま温暖化が進行すれば、早ければ2030年頃には北極の海氷が消失するとも予測されている」
北極海から氷がなくなる──。そんなことが果たしてあり得るのだろうか。詳しく知るために、海洋政策研究所海洋政策チームの本田悠介研究員を訪ねた。北極の温暖化の影響は、米国や日本などが最新技術を駆使してモニタリングしているが、あらゆる観測結果が、温暖化で姿を変えていく北極の危機的な状況を物語っていた。
解けてはまた固まる
米コロンビア大学地球研究所の分析によると、北極の平均気温は、二酸化炭素の工業排出が増える「産業化」前の1880年と比べて約3度も上昇している。これは、同じく1880年との比較で約1度前後の上昇にとどまっている他のどの地域と比べても突出した異変ぶりだ。
ノルウェー極地研究所の観測データによると、北極海のスピッツベルゲン島(ノルウェー領)にある国際観測基地ニーオルスンの平均気温は、観測を開始した1938年がマイナス5度だったのに、2000年にはマイナス4.8度、17年にはマイナス2.6度となった。00年からの17年間で一気に2度以上も平均気温が上昇したことになる。