思わぬ「どんでん切り返し」は、後を引く(※写真はイメージ)
思わぬ「どんでん切り返し」は、後を引く(※写真はイメージ)

『護られなかった者たちへ』は、仙台市の保健福祉事務所課長が、手足や口の自由を奪われた状態の餓死死体で発見されたことから始まる、中山七里によるミステリー小説。三省堂書店の新井見枝香さんは、同著の魅力を次のように寄せる。

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 手足の自由を奪われ、ただ放置される。ひとりきりで激しい飢えに苦しみ、じわじわと絶望しながら死んでいく。どれほどの恨みを買えば、こんな殺され方をするのか。職場では慕われ、遺された家族は悲嘆にくれる。そんな善良なる被害者は、福祉保健事務所の課長だった。生活保護で、市民の生活を護るのが彼の仕事である。

 しかし現実は、護ってほしいと伸ばす手をはねのけ続けるしかない。その過程で、恨みを買うこともあるのだろう。だが、立場が違えば正義は変わる。護るべきものも変わる。

 一度読めば、護られるべき人が護られなかったことに絶望するだろう。しかしもう一度読むと、自分が護るべきものを見失っていることに絶望する。ミステリーのどんでん返しに驚愕するのは一度きりだが、思わぬ「どんでん切り返し」は、後を引く。

AERA 2018年4月16日号