ぐっちーさん/1960年東京生まれ。モルガン・スタンレーなどを経て、投資会社でM&Aなどを手がける。本連載を加筆・再構成した『ぐっちーさんの政府も日銀も知らない経済復活の条件』が発売中
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(c)朝日新聞社
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 経済専門家のぐっちーさんが「AERA」で連載する「ここだけの話」をお届けします。モルガン・スタンレーなどを経て、現在は投資会社でM&Aなどを手がけるぐっちーさんが、日々の経済ニュースを鋭く分析します。

【写真】「トランプ劇場」の真骨頂

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 株価がちょっと動いたりして、すわ、貿易戦争か、などと書くメディアもありますが、冷静になりましょう。トランプが言い始めていることは選挙前から出ていた話で、この程度はやるだろう、と思われているものばかりです。

 彼が言っているのは、(1)知的財産権の侵害でWTOへの提訴(2)1300品目に対する高関税措置(リストは近日発表)(3)鉄鋼・アルミニウムの輸入制限(日本も含まれる)ということになりますが、1300品目に何が入っているのかも不明ですし、中国も同様の高関税措置の品目リストを今まさに準備中だと思われます。その意味では双方まずは土俵に上がったに過ぎず、立ち合いも始まっていない。

 今後どうなるかですが、私は何も起きないと見ています。中国のリストに大豆なんてのが入っていればアメリカの大豆の輸出の6割は中国向けなので、業界としては猛反発をします。すでに反対を表明している産業団体が相当数あることを見ても明らかで、極めて影響の少ない品目に絞って高関税(といっても20%程度)をかけるという結末になるのではないでしょうか。

 まさにトランプお得意の「プロレス劇場」型政治の真骨頂で、俺はやっているんだ、とアピールすることに主軸が置かれ、実際の政策実行についてはどうでもいい、というのがこれまでの彼のやり方ですから、米中激突なんてまともにするはずはありません。貿易戦争と言えば1970~80年代は日本が標的にされましたが、双方の貿易量の規模が違いすぎますし、当時と比較するのは無理があります。

 それより、私がひそかに恐れているのは、中国とまともにやりあうと被害が大きすぎるので、実績稼ぎに日本が狙われることです。聞き分けのいい日本なら譲歩を引き出せるし、数字的にも日本は対米で年間7兆円ほどの貿易黒字ですから、3兆円くらい叩いてしまえば立派な実績と言われるかもしれません。悲しいのですが、こちらの可能性は結構高いと見ています。

 もし本当に米中激突となって一番恐ろしい事態は、中国が持つ1兆1800億ドルもの米国債を売るぞ!と言い出すことです。過去そうだったように、売るぞ!と言うだけで米国債市場は急落、金融市場は大混乱となることは間違いありません。そうならないことを祈るのみですね。

AERA 2018年4月9日号