別の生保の現部長Cさんは当時の興奮を覚えている。業界全体がある意味、浮足立っていた。だが特約の乱立で、加入者のみならず保険会社でも契約内容が把握できなくなった。事故報告書を見ても、知らない特約については加入者に請求したか確認できない。
金融庁の検査でそれが発覚した。富士火災海上保険が05年2月、自動車、火災、傷害保険で約4800件の支払い漏れを発表。保険業界には「悪気はなかった。仕方ない」と、半ばあきらめの雰囲気もあった。
損保の課長は親族の一人に、「保険会社は加入者をだますのか」としかられ、事の重大さを見誤ったと反省した。親族いわく、契約する際には営業担当が、「あとは、こちらで全部やりますから」と、うまいことを言うくせに……。
さらに衝撃が走った。同じ月、明治安田生命保険は不適切な不払いがあったと発表。営業職員が契約の際に健康状態などを正しく告知しないように勧め、保険金支払い部門もそれを知りながら改善を怠ったとして、金融庁は2週間の業務停止を命じた。
07年にかけても支払い漏れや不払いなどが続々と判明。金融庁は、損保26社、第一生命保険、日本生命保険に業務改善、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、明治安田生命(2度目)に業務停止を命じた。
「これだけの行政処分が下され、心底怖くなった」
生保のCさんが述懐する。各社は最低限の業務以外を止め、過去の保険金支払いを調べることになった。Cさんの会社では経営側が「やりつくせ。やり残したら禍根も残す」と号令をかけ、各部署からかき集めた職員数百人に医師、弁護士、書類を整えるアルバイトも雇い、診断書を調べ直した。
Cさんは4カ月間、週末も休まず、終電を逃す日も数知れないほど没頭した。ある日、街角で空を見上げると、電光掲示板が目に入った。<人材派遣会社と仕出し弁当会社が今期の業績見通しを上方修正>。どの会社も覚悟を決めて徹底調査に入ったなと感慨深かった。