「震災を通じて『象徴の務め』として天皇が進めてきたものは、国民にとってなくてはならないもの。そう国民に思われることが、天皇がこれまで積み上げてきたものなのだと感じる」(文学部4年女子)

 学生たちのほぼ全員が「平成」生まれ。自分たちが生まれる前から両陛下が続けてきた被災地訪問の歩みを知り、深く感じ入った学生もいたようだった。

 天皇陛下は来年4月30日に退位する。天皇としての被災地訪問は今年6月に全国植樹祭で訪れる福島県が最後となりそうだ。だが、その後につながりそうな兆しもある。

●震災から10年の節目ご夫妻の訪問待つ被災者

「退位された後も私的なご旅行でいらっしゃることがあるかもしれない」

 そう話すのは、岩手県大槌町の海辺に立つ「三陸花ホテルはまぎく」の千代川茂社長だ。

 同ホテルの前身「浪板観光ホテル」は東日本大震災で被災し、社長だった山崎龍太郎さん(当時64)らが亡くなった。この年の10月、皇后さまの誕生日にあたって公開された写真に、山崎さんが生前に種を贈ったハマギクの花と、それを笑顔で眺める両陛下の姿があった。

「両陛下からの激励のメッセージでは」(千代川さん)

 ホテルはハマギクを復興の象徴に掲げ、「三陸花ホテルはまぎく」として再建を果たした。16年9月、両陛下が岩手県を訪問した際、同ホテルに宿泊した。千代川さんは「5年後にはまた震災前の砂浜に戻ると思いますのでお越しください」と伝えた。すると、翌日の帰り際、皇后さまが「5年後ですね」と声をかけてくれたという。「5年後」は21年、震災からちょうど10年の節目にあたる。

「5年後」にいらした時に備えて、また「平成」という時代を記録する意味も込めて、千代川さんはお二人それぞれの歌碑の建設を進めている。

「震災の記憶が風化する中、両陛下が被災地を気にかけてくださっていることを形に残したいんです」

(朝日新聞社会部・皇室取材班)

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※AERA 2018年4月2日号