映画ではポスト社のキャサリン・グラハム社主をメリル・ストリープ、ベン・ブラッドリー編集主幹をトム・ハンクスが演じた。「この役を演じるのに2人以上にふさわしい俳優はいなかった」(スピルバーグ氏)というが、2人の共演は意外にも初めてだ。ストリープは受賞は逃したが、アカデミー主演女優賞の候補になった。
映画は、グラハムの成長が物語の一つの核になっている。当時は米国でも男女の格差が大きかった時代。グラハムは夫の死後社主になったが、実権は男性役員が握っていた。ペンタゴン・ペーパーズをめぐる決断で真のリーダーに成長を遂げ、米国の女性リーダーの先駆者的存在になっていく。
スピルバーグ氏は「これは偉大な女性に関する偉大な物語。今や多くの企業で女性経営者が出ているが、その扉を開いたのは彼女だった」とする。
米国では昨年、ハリウッドの有名プロデューサーの性暴力やセクハラを女優らが告発したことを機に、同様の被害にあった女性が声を上げる「#MeToo(ミートゥー)」運動が社会全体に広がった。製作開始時に意図したわけではなかったが、女性の権利をめぐる大きな一歩を取り上げたこの映画の公開はタイムリーなものにもなった。
インタビューでは、#MeToo運動にも話が及んだ。ハリウッドで長く活躍するスピルバーグ氏は「事件に驚くべきだったのだろうが、そうではなかった。長い間、みんなの周辺視野に入っていたんだ。今回の件でみんな、礼儀や振る舞いについて考え直させられている。倫理的な行動規範が必要だ」と話す。
さらにこう語った。「今起きているようなことはかつて見たことがない。子どもたちは将来、沈黙が破られてたくさんの声が上げられた年として2017年を振り返ることになるだろう。とても大事なことだと思う」
(朝日新聞ニューヨーク支局長・鵜飼啓)
※AERA 2018年3月26日号