さらに、こう続ける。
「絵のセンスも漫画の巧みさも。/いつみても『今』が一番輝いている。/どうなってるんだ いったい」(同)
同じ作家とは思えないほど、作品によって絵柄を大胆に変えるのが「くらもち流」。その潔さを同業者は称賛するが、読者にはとまどいも。
「ファンの方には『どうして変えちゃうんですか』と言われることもあります。私自身、自分が好きな作家の絵柄が、新作になって違う感じに変わったら嫌だと思いますから、その気持ちはよくわかる。少女マンガの読者は特に絵柄の変化に敏感です。それがわかっていても、描きたい物語との兼ね合いや自然な流れのなかで変えざるを得なかった」(くらもちさん)
少女マンガ家の競争は熾烈だ。読者の感覚に近い新人が常に有利な中、最前線に立ち続けるために、絵柄の変化は必然だったのかもしれない。
物語の「構造」も実験的だ。
『タイムテーブル』は、物語が分刻みで進行する連作。並行して進む三つの物語が一つの結末に向けて収束していく長編『チープスリル』。群像劇『駅から5分』は、次々に主人公が交代し、周囲の人間や状況が重なり合い、絡み合いながら進んでいく。街が主役ともいえる作品で、最新長編『花に染む』へとつながる。
物語世界の成長を目の当たりにできるのも、くらもち作品の魅力なのだ。
一方のいくえみさんは、ペンネームがくらもちさんのキャラクターに由来するほどのファン。くらもちさんも、いくえみさんが14歳当時のデビュー作を見て、才能に感嘆したという。
「絵がうまいのはもちろん、ストーリーもしっかりしていました。ペンネームをつけるというときに『私が一生、ついてまわるのに、いいの?』って聞いたくらいです(笑)」
くらもちさんとの二人展開催について、いくえみさんは次のように語る。
「(今回の原画展は)今でも『本当にいいのかな? これは本当のことかな?』という感じです。別マを読んでいた頃の自分に言っても、まず信じないでしょうね。とにかく光栄です」