「短期間でも数字で見える実績を上げ、養父市の取り組みが農地法の改正につながるなど、どこにもできないことをやってきたという自負はある。私が目指す『地方の自主自立』のためにも、国家戦略特区は必要です。日本の国土の7割は中山間地域で、養父市の事例が全国展開できれば、地域農業の底上げになる。例えば、企業の農地取得は半年で4件達成したが、これを全国約1700の自治体で1年間展開すれば、6800もの責任ある農業の担い手を確保できる。1年間の新規就農者は全国で約6万5千人なので、効果は決して小さくありません」
養父市では農業分野以外でも、(1)古民家(空き家)の再生(2)シルバー人材センター会員の就業時間拡大(3)テレビ電話を使って医者が患者を診断し、薬局に行かなくても薬が自宅に届く(4)タクシーがない地域で、住民の自家用車を地域の足にする──などの事業でも特区認定されている。だが、規制緩和を進めようとすれば必ず「摩擦」は起こる。この4年間、広瀬市長もそれを実感してきたという。
「農業分野でも、地元に大企業が入ることに反対だった農家の方はいます。うまくいかなければ企業は逃げていくという危惧もあったようですが、そうならない仕組みも整えてきました。10年、20年後に評価される事業も含めて、市の取り組みを地域に浸透させていくには時間も必要です。関係省庁の役人も『うまくいったら(全国に)広げよう』という高みの見物でなく、地方と一緒に推進していく姿勢になってほしい」
求められる結果と地域住民との調整、国から地方への「事業の丸投げ」……成功モデルと言われる養父市でも、課題は散見される。日本総研調査部主任研究員の高坂晶子さんはこう語る。
「国は規制緩和の大枠はトップダウンで決めるが、関係者の合意形成や抵抗を排除する手立て、規制緩和の具体的事業への落とし込みなどは地方任せとなりがち。そのうえ、諮問会議は法律が変わった時点で『岩盤規制が突破された』と誇り、それらを生かした事業に多く着手するほど評価する傾向もある。しかし、特区で実際に事業が始まり、地元に雇用などの経済効果が発生したのかを見るとなかなか厳しい。事業数が少ないため厳しい評価を下されている地域もあるが、それらを地方の努力だけに帰するのは違和感がある。現状は『新規成長分野を国主導で開拓する突破口』という特区本来の趣旨から逸脱しているように思う」
(編集部・作田裕史)
※AERA 2018年2月19日号より抜粋