「がんアライ部」の勉強会に参加したある中小企業の人事担当者は「人材に余裕はなく、がん患者が復帰までの間の賃金を補填する公的な補助もほしい」と話した(編集部・澤田晃宏)
「がんアライ部」の勉強会に参加したある中小企業の人事担当者は「人材に余裕はなく、がん患者が復帰までの間の賃金を補填する公的な補助もほしい」と話した(編集部・澤田晃宏)
大きな窓から自然光が差し込むマギーズ東京。木を多く用いた2棟計約200平方メートルの広々とした空間で、がん患者の無料相談を実施している(撮影/写真部・岸本絢)
大きな窓から自然光が差し込むマギーズ東京。木を多く用いた2棟計約200平方メートルの広々とした空間で、がん患者の無料相談を実施している(撮影/写真部・岸本絢)

 がん患者が働きやすい環境をつくることは、企業のためでもある。1月29日、がんと就労問題に取り組む民間プロジェクト「がんアライ部」の勉強会に26社の人事担当者が集まった。登壇した順天堂大学医学部准教授の遠藤源樹(もとき)さんはこう訴えた。

【写真】広々とした空間で、がん患者の無料相談を実施しているマギーズ東京

「就労世代の人口は今後50年間で半減する。女性とがん罹患率の高いシニアの労働者が増え、就労世代のがん患者が増加する。ダメージが小さい内視鏡手術などができるようになり、早期の復職も可能になった。がんに罹患した従業員の働く環境づくりが必要です」

 遠藤さんは著書『がん治療と就労の両立支援実務ガイド』で、2000年から11年の12年間で初めてがんと診断され、病休となった1278人の追跡調査結果を公表した。がん種により異なるが、職場復帰までの平均日数は、時短勤務まで80日、フルタイム勤務まで201日だった。遠藤さんは話す。

「がん罹患者の復職には十分な病休期間の設定と短時間勤務制度の導入が必要です。大企業では制度の導入が進んでいますが、中小企業の身分保障期間は約3カ月で、短時間勤務制度を持つ企業も1割未満と課題がある」

 自治体も動き出している。東京都は14年度から、企業のがん患者の治療と両立に対する取り組みを表彰し、事例として公表。日本航空(東京都品川区)は17年、最も優良な取り組みに送られる優良賞を受賞した。時短制度や在宅勤務制度を整えることはもちろん、職場復帰も産業医や所属長との相談のもと、段階的に行っている。取り組みは制度改革に留まらず、同社では健康対策や会社の健康目標を記したハンドブックを全社員に配布し、各事業部に配置された「ウェルネスリーダー」が健康促進やがん検診受診の促進活動を行っている。同社健康管理部の今村厳一部長は、こう話す。

「がんになってからの対策だけではなく、そもそもがんにならない対策が必要。乳がんなどは若いときに罹患することが多く、女性管理職を増やすためにも事前の予防が求められます」

 中小企業も負けていない。講演会などへの講師派遣を行う日本綜合経営協会(東京都新宿区)は、予定やメール管理、組織内の情報共有ができるソフトウェアを導入し、全社員にモバイル端末を配布。自宅で会社と同じように仕事ができる環境を整えた。がんで通院している社員の声を受け、時間単位での有給休暇の取得制度も導入した。岩鼻宏樹社長はこう話す。

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