1月20日に就任1年となるトランプ米大統領。政権運営の安定を図りたい今年だが、逆に政権内の混乱ぶりと大統領の精神状態を不安視させる暴露本の出版で幕が開いた。
トランプ氏も家族も側近も予想外の大統領選勝利に困惑した。大統領が愛する長女イバンカ大統領補佐官は大バカで世界の動き、政治を全く理解していない。政権幹部の多くがトランプ氏を陰でまぬけと呼ぶ──。
ホワイトハウスの報道官が「下品なタブロイド的ででっちあげとしか言いようがない本」と強く非難した暴露本『FIRE AND FURY(炎と怒り)』は、実名で様々な個人を激しく批判している。
ホワイトハウスに出入りしていたジャーナリストのマイケル・ウルフ氏が、トランプ氏の側近らのべ200人以上を取材して執筆。1月5日に米国で出版されると、売り切れが相次ぐ話題の本となった。取材に協力し、トランプ氏の家族や政権幹部らの強烈な批判を含めて大いに語ったのが、スティーブン・バノン前大統領首席戦略官だ。
政権内でトランプ氏の娘婿クシュナー氏らと激しく対立し、昨年8月に更迭されたが、「米国第一」政策を掲げ、トランプ大統領誕生の立役者だった。側近中の側近だったバノン氏がウルフ氏に様々なことを語っていることが、トランプ氏の怒りをさらに激化させた。暴露本内のバノン氏の発言が報道などで明らかになった3日にトランプ氏が出した声明では、「バノンは私や政府とは無関係。解任された際、仕事とともに正気も失った」と痛烈に反論した。
そのバノン氏は昨年11月と12月に訪日していた。すでに暴露本が出版に向けて最終段階に入っていた時期だ。この時にバノン氏に数回会った中林美恵子・早稲田大学教授(米国政治)によると、バノン氏はトランプ大統領を悪く言うことはなく、むしろ今も支持しているという印象を強く受けたという。ロシア疑惑でマラー特別検察官の捜査対象となっているクシュナー氏については「マラーにやられる」と話すなど評価が厳しかったが、それ以外の家族批判は全くなかった。それだけに暴露本でのバノン氏の発言に「なぜ、こんなことをする必要があるのか。計算違いがあったのではないか」と首をかしげる。