姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍姜尚中(カン・サンジュン)/1950年本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍
日本はカモにされている(※写真はイメージ)日本はカモにされている(※写真はイメージ)
 政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。

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トランプ大統領と安倍晋三首相は、一緒にゴルフをプレーし、鉄板焼きを頬張るなど、その親密ぶりが注目を浴びました。トランプ氏のアジア歴訪も終わり、改めて日米関係を見ていくと、果たしてトランプ政権に北朝鮮危機や中国の台頭、東南アジア諸国の興隆などを睨んだ地政学的な戦略があったのかと首を傾げざるをえません。要するにアジア・太平洋地域の国々を束ねていくような多国間主義のアプローチではなく、ひたすら米国第一の二国間主義に偏った、場当たり的な戦略だけが剥き出しになったと言えるでしょう。

 こうした二国間に限定した場合の、自国の相対的な優位をテコに相手国から譲歩を引き出す米国ファーストのトランプ式のディーリング(取引)は、日本にも例外なく適用され、首脳同士で仲睦まじくゴルフに興じ、一緒にステーキを頬張っても、貿易黒字国、日本への欲得ずくの要求に目こぼしの温情的な配慮が期待できるわけではありません。実際、二人で仲良くグリーンを回った翌日、トランプ大統領は在日米国大使館で日米の貿易不均衡に触れ、膨大な対日貿易赤字の不満を述べました。しかも、膨大な米国製の武器購入を約束させられ、貿易と経済に限っても、日本はカモにされていると言っても言い過ぎではありません。

 いくら安倍首相がトランプ大統領との縁故的な親密さを誇っても、対日請求に手加減が期待できるわけではないのです。そして韓国もまた、同じようにカモにされ、米国製の「軍事的ハードウェア」の購入を約束させられました。また、北朝鮮問題にからむ圧力を弱め、南シナ海問題から目を逸らすためとはいえ、中国も二十数兆円にのぼる商談を米国に約束しました。

 こうしてみると、北朝鮮問題をフレームアップすることで経済的な実益を獲得しようというトランプ流の取引外交は功を奏したと言えるでしょう。しかし、長期的にみれば、米国の東アジア関与の戦略と意思に疑問符が付き、その分、米国頼りの日本は浮き上がった存在になりかねません。一過性のメディアイベントに終わらない、日米関係と包括的な東アジア政策、外交戦略が必要とされています。

AERA 2017年11月27日号