経済専門家のぐっちーさんが「AERA」で連載する「ここだけの話」をお届けします。モルガン・スタンレーなどを経て、現在は投資会社でM&Aなどを手がけるぐっちーさんが、経済について鋭く分析します。
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シアトルにオフィスがあるもので、同じく本社のあるアマゾンのマネジメント連中とは結構会うわけですが、2015年に実店舗のアマゾンブックスをシアトルにオープンした時には、真意をつかみ損ねておりました。本をネットで売るビジネスモデルでアメリカはおろか、世界を席巻しているのですから、当初は私の理解を超えていたのです。
あれから2年がたち、アマゾンブックスに頻繁に立ち寄るようになってから、これは本の売り場ではなく、来店者に体験させる場であることが分かり、これがアマゾンのやりたいことだったのか、とようやく合点がいったのです。
現在、全米に10店舗以上展開しているのですが、例えばシアトルとニューヨークの店舗では置いてある本の種類がまったく違う。シアトルでは、シアトルの地域に根差したような、例えばネイティブアメリカンの歴史であるとか、マイクロソフト関連の書籍、さらにはワインの有力産地であることもあり、ワイン関係の品ぞろえが大変多い。
これらの本は通常の本と違い、写真の出来栄えなども含め、ネットで見るより、実際に手に取って見てみたいという欲求が強い商品であり、地域性も考慮されているので、全米からシアトルを訪れた人はそこに行けばシアトルの歴史も分かるつくりになっている、というところがミソ。もちろんその場でスマホで本をチェックし、書評などを見ながら立ち読みでき、アマゾン側はどれだけの読者がその場でアクセスしたか、ウィンドーショッピングデータまで取れてしまう、という一石二鳥。
さらに本が平積みで並んでいるので、手に取って見やすい仕組みになっています。アマゾンに聞いたところ、通常大手の書店だと2万点程度置くのに比べ、彼らの店は5千点程度。絞り込んだ内容になっているわけですが、とにかく見やすい。まずはアマゾンブックスに行って手に取ってみて、その場でネット購入するという人も多くいます。
行きつけるようになると、何か発掘があるかも、という欲求に勝てず、週に何回も通ってしまうファンも多く、実際、シアトル店は週末には行列ができています。ネット通販が全盛の今、実店舗である小売店こそ、こういう「尖った」品ぞろえをしていくことが必要なんだ、と改めて感じさせる事例ですね。
※AERA 2017年10月30日号