小倉さんら被爆者の思いは今年7月、国連で122カ国が賛成した核兵器禁止条約の採択に結びついた。まさに「国境を超えた努力」が結実したものだ。小倉さんは「長い間望んできた一歩を進められたことは、大きな喜び」としたが、唯一の被爆国である日本が条約に署名しない方針であることには「とても残念で、怒りを感じる」と話した。

●オバマ前大統領の広島訪問 「祈りを捧げるのは当然」

 この日も平和記念資料館は、多くの外国人でごった返していた。同館啓発課によると、外国人の入館者数は、東日本大震災が起きた2011年度にいったん落ち込んだものの、12年度以降は毎年増加し、13年度には初めて20万人を突破。15年度には33万8891人、16年度には36万6779人となり、13年度以降4年連続で記録を更新している。今年度もすでに16年度を上回るペースで外国人が来館している。10万人に達しなかった01年度までと比較すると、その数は、この15年間で約4倍にふくれあがった計算となる。

 日本人を含む総入館者数との割合で見ても、15、16年度はいずれも2割以上を外国人が占めており、1割に満たなかった03年度までと比べて倍になった。訪日外国人観光客数全体が増え続けていることなどに加え、昨年5月のオバマ大統領(当時)の広島訪問の影響もあるという。国別統計はとっていないが、音声ガイドの貸し出し状況でみると、米国や英国など英語圏からの入館者が圧倒的に多く、核保有国であるフランスや中国、ロシアの各言語圏や、ドイツや韓国、スペインやアラビア語圏からも一定の来館がある。

 それでも広島市に来る外国人観光客(16年=約117万6千人)の3分の1以下しか資料館を訪問しておらず、啓発課の西田満課長補佐(53)は、さらに多くの来館に期待する。

「特に核保有国の国民にこそ見てもらい、核なき世界に向け、世論の力で政府を動かしてほしい」と話す。

 資料館では今、オバマ大統領から贈られた手作りの折り鶴を公開している。ピューツさんは、手作りであることに驚きながら、米国内で反対論もあった大統領の広島訪問について「私は支持する。犠牲者に祈りを捧げるのは当然のこと。ただ、やり残したのは公式な謝罪。これを引き継ぐ大統領が早く出てきてほしい。今のトランプ大統領にはとても無理だから」と話した。

●終戦時85%が原爆投下支持 15年には56%まで落ち込む

 その後、国立広島原爆死没者追悼平和祈念館や原爆ドーム、平和記念公園内にある平和の鐘、平和の灯などの様々な慰霊碑を巡った。原爆の子の像の前では、モデルとなった佐々木禎子さんの像を見上げ、周囲に飾られた数多くの千羽鶴を手に取っていた。最後に立ち寄ったのが原爆死没者慰霊碑。8月6日にあった平和記念式典で、この1年で死亡が確認された広島の被爆者5530人の名前が新たに奉納され、死没者は計30万8725人になったことを伝えると、ピューツさんはうなずきながら、アーチ形の碑と、その向こうに見える原爆ドームをしばらく静かに見つめていた。

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