何やら聴き慣れぬ音色が近づいてくる。奏者の姿は見えない。正体は、新たな展開をみせているAI(人工知能)。人間と協調して演奏し、わずか数十秒で作曲もするとか。AERA 9月4日号ではAI時代の音楽を見通すアーティストや動きを大特集。人間と音楽、そしてAIのトリオが奏でる曲とは、一体何か――。
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音響技術に革命が起きようとしている。音量だけでなく、音の広がりも操れるようになってきた。街中でのライブも可能になりそうだ。
JR京都駅から西に2キロ弱の梅小路公園。ここで毎年秋に、京都音楽博覧会が開催されている。一般的に郊外で行う野外音楽フェスティバル(以下フェス)とは異なり、会場が街中なのが特徴的だ。だが、地元のイベントとして定着する中、2007年に開催してから音楽や歓声による近隣住民の騒音被害が問題視されてきた。
主催者側に14年から被害の解決を任されてきた、立命館大学情報理工学部音情報処理研究室の西浦敬信教授(42)は、まず過去にクレームがあった場所で、騒音計でデータを収集した。すると、地形による音の通り道や、音が重なり合って集中する地点が明らかになった。その結果をもとに、翌年は会場のスピーカーの位置と角度を調整したところ、苦情件数がゼロになった。
●街中でのフェスも可能に
使うスピーカーも音が広がらないタイプを薦めた。それを若干下向きに設置し、地面に音を反射させて空へ放ち、上空で早く衰退させるようにした。この方法でコンサート会場の内外で“音のすみ分け”ができるようになったという。
「これを『空間シェアリング』と名付けました。会場内の盛り上がりを内にとどめる精度が上がれば、街中でもっと気軽にフェスを開けるようになるかもしれない」(西浦教授)
近い将来は、“音響技術”で騒音被害が解決できる可能性も出てきた。西浦教授が14年に発表した「極小領域オーディオスポット」は、空間上で狙った「点」でだけ音を聞くことができる。複数の超音波スピーカーから出る周波数を一点で交わるようにし、2センチ四方の音空間一点でのみ音を再生できるという。
この技術を自宅で使用した場合、居間で過ごす家族全員がヘッドホンなしでそれぞれが聴きたいものを選ぶことができるようになる。例えば、料理をしながら、耳元で音楽やラジオなどを聴くことが可能になるのだ。
このように、音を聞ける空間を操作する技術を使えば、フェスなどの楽しみ方も変化しそうだ。実用化に向けて現在、複数の企業と共同研究を進めているという。
「超音波スピーカーはまだ京都音楽博覧会では使われていませんが、将来、街中のフェスでも活用できるとさらに可能性が広がると思います」(西浦教授)
騒音クレームゼロの社会にまた一歩近づいた。(編集部・小野ヒデコ)
※AERA 2017年9月4日号