経済専門家のぐっちーさんが「AERA」で連載する「ここだけの話」をお届けします。モルガン・スタンレーなどを経て、現在は投資会社でM&Aなどを手がけるぐっちーさんが、日々の経済ニュースを鋭く分析します。
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先日のFRBのイエレン議長の議会証言を受け、相変わらず某紙がぶっとんだ記事を書いていて、こっちがぶっとんでしまいました(笑)。
この記事によれば、利上げをスタートし、年末にもFRBが資産買い取り額を減少させると言っているのに市場が動揺しないのは、連銀が買い取っていると言ってもそれは超過準備になって連銀に積まれており、買い取り額を減少させても資金が金融機関に戻るだけなので、影響がない、そして日銀とECBは引き続き国債などの買い取りを続ける、のが理由だというのです。日銀とECBはアメリカ国債を買っているわけではないのでそもそも何の関係もありませんし、超過準備の話も、もしそんなに影響がないならさっさと資産買い取りをやめてしまえばいいだけの話であって、全く整合性がありません。
では市場が動揺しないのはなぜか? それは過去の金融政策の変更が起きた時期と決定的に異なっているから。金融機関の取り得るレバレッジが極端に減っているから、なのです。このレバレッジがわかっていない人は2008年時も大した影響はない、と断言していて、我々市場参加者と完全に意見が対立しましたが、結果はご覧のとおり。
例えば07年あたりには「レバレッジ100倍」なんて取引を投資銀行は普通にやっていたわけです。つまり10億円の現金を持ってくれば1千億円の資金を調達できた。そりゃ、これだけの金額で相場に入ってくれば市場にはものすごいボラティリティーが発生します。しかし、名だたる投資銀行が倒産や倒産寸前に追い込まれ、最終的にはSEC(米国証券取引委員会)の管理下に入った。更にはいわゆる「ボルカールール」の発動で取り得るレバレッジがせいぜい3倍程度しか認められなくなったことが、今回市場がほとんど動かない最大の原因なのです。
要するに大きな金額でギャンブルができなくなっている、のが現状です。そのためいくら利上げをしても、資産買い取り縮小を始めようとも、金利上昇に賭ける元金がないというのがウォールストリートの現状です。イエレンはそれをわかっているからこそ、市場の動きはあまり警戒せずに、マクロ経済動向に集中することができるわけで、そのことはFRB議事録を読んでも明確に説明されていますね。
※AERA 2017年7月31日号