「インドでは何千年という歴史の中で常に、外から異民族が侵入し、王様も代わってきました。為政者が代われば貨幣の価値もゼロになる。昨年は高額紙幣が突然廃止されました。凄まじいインフレも何度も経験した。でもどんなに政治情勢が変わろうと、金の価値が失われることはない。その教訓はインド人の身に染みついているのです」

 最近ではダイヤモンドやプラチナに興味を持つ人も増えているが、圧倒的に信頼されているのはやはり金だという。

「いざという時、土地を持って走れますか? 銀行口座も封鎖されるかもしれない。でも金をジュエリーの形で持っていれば、すぐに身につけて逃げられます。現に私の両親は1947年のインド・パキスタン戦争の時、母が身につけて逃げた金のおかげで生き延びることができた」

 インド人にとって金購入は保険のようなもので、儲けるという感覚はない。よほど困らない限り換金もしない。懐具合に応じてコツコツと、今でいう「純金積立」を何千年も続けてきたのだ。先祖代々受け継いでいくので、家族の歴史の証しにもなる。インドではどんなに田舎の貧しい農村にも金を売買できる店があり、特にヒンドゥー教最大の祭典「ディワリ」の初日はインド中の店が客でごった返すという。

 一方で新たな動きも。5月末に発表された16年度の実質国内総生産(GDP)の伸び率が7.1%と3年連続で中国を上回るなど高い成長を続けるインド。牽引するのは活発な個人消費だが、主役は中間層だ。彼らの間では、株式や不動産も含めた分散投資が広まっているという。そんな事情を教えてくれたのはサンジーヴ・スィンハさん(44)。名門インド工科大学出身で、21年前に来日。ゴールドマン・サックス証券を経てTATAアセット・マネジメント日本代表を務めるなど資産運用のプロだ。

「インドでは国内の株をスマホで取引する人が増えている。為替リスクを負ってまで海外に投資しなくても、国内産業が成長している。株式専門チャンネルも日本より充実しています」

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