


地に落ちたイメージを回復させて、業績も上向かせる……。これまで、多くの企業が直面し、その実現に腐心してきた。これは、個人の場合でも同じこと。落ち込んだ底が深ければ深いほど、復活には時間がかかる。AERA 2017年7月3日号では、「どん底からの脱出」と銘打ち、見事V字回復した企業を大特集。そのとき企業は、個人は、何を考え、どう振る舞うべきなのか。当事者たちの話を聞いた。
競馬新聞片手に、耳には赤鉛筆──そんな昔気質の競馬ファンとはちょっと違う客層が地方競馬場に増えている。データ管理の一元化、ネット投票システムの整備……。そんな地道な施策から、新規顧客開拓の道が開けた。
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6月16日金曜日の午後2時。梅雨入りしてだいぶ経とうというのに、近畿一円は雨の気配もなく、強い日差しがナイターの開門を待ちわびていた競馬ファンの肌を焦がしていた。大阪国際空港にほど近く、住宅街に抱かれるような立地の兵庫県尼崎市の園田競馬場は、近年業績好調な地方競馬の中でも抜群の存在感を誇る。競馬新聞片手に耳に赤鉛筆を挟んだ昔気質のギャンブラーが溢れていた時代とは別の活気が、みなぎっていた。
100円玉を自動改札に投入して場内に入ると、リズミカルに踊るサンバのダンサーの出迎えを受けた。イベントステージ前の特設リングでは「大日本プロレス」が6メンタッグマッチで肉弾戦を繰り広げている。
「パドックやレースだけでなくてイベントも含めて雰囲気が明るいし、開放感に満ちていますね。食事も充実しているし、次は中学生の息子を連れて来ようかな。お金を使わなくても十分楽しい。これがパチンコだったら1万円なんてあっという間に負けてしまうからね」
久しぶりに訪れたという50代の自営業の男性は、こう表情をほころばせた。
●ネット投票で全国区に
園田競馬を主催するのは兵庫県と尼崎市、姫路市でつくる「兵庫県競馬組合」。大幅改修中で休場しているサブの姫路競馬場と合わせて2場を運営する同組合の年間開催日数は163日と、全国で最多だ。ピークは地方競馬全体と同じく1991年度で、メインの園田は126日開催で935億円を超える総売り上げがあった。しかしバブル崩壊の煽りで売り上げは落ち込み、東日本大震災翌年の2012年度は約255億円と底をついた。ところが13年度からは毎年順調に上積みを続け、昨年度は517億円余にまで回復、今年度も前年比22%を超える順調な滑り出しだ。回復基調の原因について、同競馬組合常勤トップの米澤康隆・副管理者はこう分析する。