これまでのLGBT=リベラルというイメージは崩れつつあるのか。5月に行われたフランス大統領選で気になるニュースがあった。マリーヌ・ルペン氏率いる極右政党「国民戦線」を支持するゲイたちの存在だ。党首のルペン氏は側近に多くのゲイを迎え、移民排斥をうたい、イスラム原理主義のホモフォビア(同性愛嫌悪)から彼らを守ると約束。同性婚法を撤廃するという公約にもかかわらず、地方選挙で国民戦線に投票した既婚のゲイは約40%にものぼった(CEVIPOF調べ)。ポピュリズム研究で知られる吉田徹・北海道大学教授は、LGBTは基本的に左派政党を支持するという大勢は変わっていないとしたうえで、こう指摘する。
「フランスは異性愛者もLGBTも市民権で差異がないほど法整備ができています。権利を獲得する過程ではリベラルに傾倒することが多いですが、その後の政治意識は当然、多様です。さらにこの場合の極右は、リベラルな価値の守護者という意味合いになりますから」
フランスでは2012年に『なぜゲイたちは右傾化したのか』という本が出版されている(未邦訳)。著者のLGBT活動家ディディエ・レストラード氏によると、国民戦線が勢力を増したことで、ゲイたちも右翼的な意見を述べることにためらいがなくなったのだという。前出のAさんはフランスの現象を、
「これまで迫害されてきたぶん、迫害する側にまわれる心地よさがあると思う」
と言い、社会全体が右傾化する中でLGBTもそうなっているのは、日本にも共通しているはずだと言う。
「ゲイで可哀想なマイノリティーの私がマジョリティーの保守政党を支持してるのが不思議に見えるかもしれないけど、私はゲイの前に人間だから。LGBTの中にも保守はたくさんいますが、メディアやいろんな人たちのレッテル貼りでこれまで言いづらかった。社会全体が保守化、右傾化してきたことでやっと堂々と発言できるようになってきたのだと思います」(Aさん)
●石原慎太郎が大好き
静岡県に住むゲイのBさん(会社員・36歳)も知人のゲイたちの口から外国人ヘイトを聞くことが増えたという。
「マイノリティーだから自分だけが報われないという思いがどこかにあって、そんなときに外国人は仮想敵になりやすいですよね」
Bさんは学生時代、小林よしのり氏の著書を読み、授業で教えられた戦争に関する歴史認識に疑問を持つようになった。その後、インターネット掲示板を通じて保守思想の人とネットやオフ会で交流、自分でホームページも立ち上げた。