レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字をとってLGBT。性的マイノリティーを表すために生まれ、定着しつつある言葉だ。たしかに一定の理解は進んだ。だが、LGBTとひとくくりにすることで、塗りつぶされてしまった「個」や思いがあるのではないか。性的マジョリティー側は「わかったような気持ち」になっているだけではないのか。AERA6月12号の特集は「LGBTフレンドリーという幻想」。虹色の輝きの影で見落とされがちな、LGBTの現実に迫る。
マイノリティーとしての権利獲得の過程では、圧倒的にリベラルに依拠してきた。しかし制度が整ってくると、多様な政治意識が浮上してくる。立ち位置が変容するとき、LGBTのアイデンティティーはどこに向かうのか。
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電車でベビーカーを折りたたまない母親たちを見るたびに、Aさん(男性・46歳)は自らを戒めている。
「こんなふうに人に迷惑をかけてまで権利を主張するのはよくないな。ゲイも多少は弾圧されてるくらいでちょうどいい」
Aさんはゲイだ。東京都で自営業を営んでおり、職場の同僚や友人にも打ち明けている。恋人はいるが「同性婚」には興味がない。法制化にも大反対だ。
「私の中の結婚は、小学校の理科で習ったおしべとめしべのイメージです。男女が結ばれることが大切。連綿と続いてきたこの伝統を守りたいんです」
Aさんは自らを「保守」だと語る。夫婦別姓や同性愛カップルが養子縁組して子どもを育てることにも反対だ。幼い頃から自民党の国会議員と家族ぐるみで付き合ってきたせいか、物心ついた頃から「寄らば大樹の陰」で自民党支持になったという。靖国神社への参拝も「デート感覚」で定期的に行っている。今年、母親を看取ったが、保守的な母が悲しむからと、自身のセクシュアリティーについて打ち明けることは最期までなかった。
●極右支持する仏のゲイ
そんなAさんは最近、ゲイのコミュニティーで、ある変化を感じている。以前は少しでも「右っぽい」話をすると空気がひりついていたが、今は左右どちらの立場からでも議論できるようになったというのだ。
「バーなどでお酒が入ると特にそう。どちらがより右か、あおってくる人も多くて競争みたいになることもあります。中国人や韓国人へのヘイトもよく聞くようになりました」(Aさん)