発生時、担任教師はペアを組んでいた男児に「保健室に連れていけ」という指示はした。給食の時間に机に突っ伏したまま動けない定松君には声をかけなかった。そう定松君が証言している。倒立をしないという選択肢はなかったのか、と問いかけると、

「やらなかったら、また何か嫌なこと言われるって思った」

 ではせめて、給食の時間に担任教師に、「先生助けて」と訴えることはできなかったのか。

「どうせ何もしてくれないに決まってるって……」

 最後は涙声になり、啓子さんが話を引き取った。

「息子はずっと、いやみを言われ続けていました。先生の嫌がらせなのか、いじめなのか……」

 小学2年生のときに入ったミニバスケット少年団でも、同じ男性教師の指導を受けていた。保護者も当番で練習や試合に参加する。5年生で担任になったころから、男性教師が定松君のミスに「どうしてくれるの?」「やめてくれる?」と言ったり、シュートを決めても「どうせまぐれだろ」と言ったりするのを見てきたと啓子さん。

 授業で挙手して答えても「ほら、あいつができてるよ。みんなどうすんの?」などと言われ、この時点で定松君は啓子さんと共に男性教師に直接、「いやみを言ったり、いじったりするのはやめてほしい」と訴えている。

 男性教師は「えーっ!? 俺のせい? マジっすか」と意外そうだったが、「笑いを取りたいときに彼を使っていたかも」と認めた。息子が定松君の同級生だったという女性は言う。

「私たちから見ても、担任の定松君への接し方には悪意があるように見えました。まさか先生が子どもをいじめるなんて、とまだ半信半疑だった」

●毎年のように報道される教師による「いじめ」

 しかし、こうした「まさか」が増えている。

 世田谷区には「担任による定松君への不適切な指導について取材したい」と申し込んだが「裁判中なので遠慮したい」と断られ、担任教師や学校側の話を聞くことはできなかった。昨年末、新潟市の男性教師が福島県から避難していた児童の名前に「菌」をつけて呼んだと報道されたことは記憶に新しい。今年2月には、愛知県一宮市で男子中学生が担任教師からのいじめを遺書に残して自殺。この件も、組み体操でのケガが発端だった。

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