このため米国も北朝鮮攻撃に慎重にならざるを得ず、米国が威嚇すると同時に中国が経済面で締め付け、北朝鮮に核・ミサイル開発の凍結を迫る戦略だ。
●両首脳は妥協できるか
だが、威嚇戦略には相手がそれに屈しない場合、上げた拳を振り下ろさざるを得なくなる危険がつきまとう。威嚇が戦争の前奏曲となった例は多いのだ。
79年の中越戦争は典型的な例だ。カンボジアのポル・ポト政権を米国と共に支持していた中国は、ソ連寄りのベトナムが国民170万人を殺したポル・ポト打倒のためにカンボジアに出兵したのに対し、ベトナム国境に40万人の大軍を展開して威嚇。ベトナムが中国に対する防備のためにカンボジアから兵を引くことを狙った。
だが、ベトナムは威嚇に動じず、カンボジア平定を進めたため、中国はベトナムに侵攻せざるを得なくなった。中国軍は2週間で30キロ前進、国境地帯の町を占領、やっと面目を保ったが、歴戦の民兵主体のベトナム軍10万人により、大損害を受けており、翌日撤退した。
威嚇の成功例と言われるのは62年のキューバ・ミサイル危機だ。CIA(米中央情報庁)が組織したキューバ人亡命者部隊1700人がピッグス湾に上陸したが全滅、恥をかいた米国は本格的侵攻を準備、カストロ首相はソ連に救援を求めた。ソ連はそれに乗じて中距離弾道ミサイルをキューバに配備し始めたため、米国は軍艦183隻でキューバを封鎖。世界各地で米軍は核全面戦争に備えた。
だが米ソの裏交渉で米国はキューバに侵攻しないことを約束、ソ連はミサイルを撤去した。
「核戦争を辞さないケネディ大大統領の決意にソ連が屈した」と米国で称賛されたが、実はケネディ対フルシチョフという大物同士の巧みな駆け引きと妥協の結果だった。トランプ氏と金正恩(キムジョンウン)氏がそれを再現できるのか否かは、日本の安全保障上重大な疑問だ。(軍事評論家・田岡俊次)