日本中の小中高生が歌声を競う「NHK全国学校音楽コンクール」(通称・Nコン)をめぐり、関係者の間で動揺が広がっている。AKB48の新曲が中学の課題曲に決まったためだ。
「『さすがにAKBは来ないだろうね』って、ずっと話していたんです。それが現実になるとは……」。ベテラン指揮者の田久保裕一さんはため息をついた。全国の管弦楽団や合唱団でタクトを振るかたわら、合唱指導者向けの講習会も行う田久保さん。ここ数年、彼のもとには、昨今の「Nコン」の姿勢を憂える声が絶えなかったという。
●合唱曲とポップス違う
「Nコン」は、朝日新聞社などが主催する「全日本合唱コンクール」とともに、学校合唱界の双璧をなす一大イベントだ。85年の歴史があり、昨年度には約2500校が参加している。「憂いの声」とは、ここ10年ほど、特に中学校の部の課題曲でポップス曲が続いていること。アンジェラ・アキの「手紙」を筆頭に、いきものがかり、flumpool、SEKAI NO OWARIなどが担当してきた。
今年は秋元康氏作詞の「願いごとの持ち腐(ぐさ)れ」に、曲名も含め批判が集まっているという。
「たしかにJ-POPは若者ウケするし、なじみやすい。でも、これまで大切に育んできた合唱曲の中でポップスは異質で、発声方法も違う」と田久保さん。
批判的な人たちの多くは、ポップス自体が悪いのではなく、良い曲も多いと考えている。だが、「合唱とは別モノ」だ。ユニゾンで完成している楽曲を無理に合唱曲へアレンジして約半年間、教育現場で取り組ませる必要があるのか。「CD売り上げや視聴率アップ狙いが透けて見える」との声も絶えない。
実は、こうした憤りを表に出せる人は多くない。コンクール強豪校の、ある教員は「大会に挑む者にとっては、主催団体に物申すなんて、無理な話です」。
生徒たちの前で「今年の課題曲は良くない」などと言えるわけもなく、楽曲の美点を探し出して指導するしかない。たとえ自由参加の大会でも、部活動としての立場上、「『曲に納得できないから今年は出るのやめる?』なんて言えない」という。