政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。
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英国のメイ首相がEUに離脱を通知し、最長で2年間の交渉に入りました。アングロサクソンの過剰なナショナリズムが噴き出した英国は、19世紀のドイツと化しています。19世紀、アダム・スミスの自由貿易主義に対抗したのがドイツのフリードリッヒ・リストでした。彼は、自由貿易は経済力のある国が一人勝ちをする、それに対して保護するものは保護して国家を強化しないといけないと説きました。一方で、保護すべきものは保護しろというだけでなく、生産性を上げるためにはどうしたらいいかということも考えていました。
保護主義に向かいつつある英国の最大のアドバンテージは金融街「シティー」があることです。EUのなかにいてもポンドが通用するということで、いいとこ取りができていたわけです。英国のEU離脱は最大の特権を自ら放棄したことになるのですから、合理的に考えれば愚かな選択だと言わざるを得ません。