青春群像劇、SFからミステリーまで、幅広いジャンルを得意とする恩田陸。新作では、現実社会を彷彿とさせるディストピアをユーモアを交えて描いた。
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「本の刊行はローカル駅、文学賞はターミナル駅のよう」──。
ピアノコンクールを舞台にした青春群像劇『蜜蜂と遠雷』で第156回直木賞を受賞した。贈呈式のスピーチで、25年間休まず走り続けてきた作家生活を、長距離列車の運転に例えた。
「本が完成すれば少し停車するけれど、またすぐに走り出す。(直木賞という)大きな駅に止まることができ、これまでの仕事を振り返るいい機会になりました」
たどり着いた64番目の「駅」となる最新作『錆びた太陽』は、受賞作とは作風ががらりと異なる。舞台は、原子力発電所で起きたテロにより国土の一部が放射能に汚染された日本。人工知能を持つロボットが管理するこの地に、ある日突然、国税庁職員を名乗る女がやってくる。
この小説を書く上で、原体験となった出来事がある。1999年9月30日、テレビ画面に突如、ニュース速報が入った。600人以上が被曝した、茨城県東海村の臨界事故の一報だ。高校時代を茨城で過ごし、事故があった核燃料加工施設は高校時代の同級生の親も多く勤める身近な存在だった。原子力マネーで潤う豊かな村が、一夜にして悲劇の舞台となる。強烈な違和感が忘れられない。
現実社会の闇にも通じる作品を、あえてコミカルに描いたのには理由がある。
「これが正義だ、善だとまじめに語るほうがうそっぽくてリアリティーがない。コメディーにするからこそ、伝わるものがあるんじゃないかと思います」
読者を飽きさせないために、新たな表現を求める旅は続く。その「終着駅」には、何が待っているのだろうか。
「見当もつかないですね。『この先、まだ見ぬ景色があるんじゃないか』ってところで力尽きてしまうのかも。……終わりはない、ということなんでしょうね」
(編集部・市岡ひかり)
※AERA 2017年3月27日号