そんな私にイケメンは、足裏のオイルマッサージとタイ古式マッサージのダブルで80分5980円のコースをオススメしました。つまり、80分先まで予約が入っていないということです。新規オープン店とはいえ益々不安が募ります。

 先に会計を済ませ、何度穿いてもうまく穿けないのでお馴染みのタイパンツに着替え終わった頃、ついにイケメンが薄暗い部屋にやってきました。畳2畳の狭さに、イケメンと二人きり。タイマッサージなので、施術は床に敷かれた布団。つまり、これから80分間、布団に寝そべった私の体をイケメンが触るのです。つらい。つらすぎる。

 うつ伏せた途端、私は果てしない後悔の念に苛まれることになります。足裏マッサージなんてチョイスしなければよかった! だって今、私のかかとは冬の乾燥でガッサガサにひび割れているのだから。

 お仕事ですから、イケメンは「かかと、ガサガサだね」とは言わないでしょう。でも、腹の中ではそう思っているに違いない。恥ずかしさで心臓が潰れそう。自分が自分に生まれてきたことすら嫌になってきます。もう、私を触らないで!

 自意識に引きずり回され、80分後の私は入店時より疲労度アップ。安心して体を預けるなら、やはり同性の同世代が一番リラックスできます。たとえかかとが割れていても「わかるよ、そんな日もあるさ」と思ってくれそうじゃあないですか。それが安心を生むのです。

 中年女とイケメンでは、同志の絆が生まれないのであります。

ジェーン・スー「イケメンは苦手」(『今夜もカネで解決だ』朝日新聞出版より)

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