3人の進路選びに共通するのは「なんとなく」という感覚。例えば3人のうち1人が文I進学を決めた理由は「好きな子が文Iに行くと言っていたから」だった。一見、「志が低く低体温」のようだが、視点を変えれば、彼らは官僚が力を失い「成功」のあり方が多様化したいまの社会をそのまま反映しているとも考えられる。取材を進めると、時代に即した「志」のある学生が増えている状況も見えてきた。
現在就活中の男子学生(21)は、「自分の行動原理は『ノブレス・オブリージュ』だ」とはっきり語る。
「高校時代に『君たちは恵まれた環境にいる、それを社会に還元しなければいけない』という感覚を教え込まれた。文Iや法学部は、『国にとっていいことなのか』と青臭く議論できる環境が整っていたと思います」
●社会を変えたい意識も
官僚に加えて日系の金融機関への就活も考えるなど、一見安定志向にも見えるが、
「東大生はゼロから何かを作るよりも、大きな組織の中で力を発揮するタイプが多いと思っています。学閥を利用してやりたいことをやるのも一つの選択肢です」と冷静に見極める。
一方で、「地方自治ならヘッドになれる、個の力で戦える可能性がある」と総務省を強く志望する男子学生はそういう「いかにも東大法学部」な学生はつまらないと言い切る。
「新しい発想をあまり持たない人が官僚志望者に多いと感じます。正解主義で育ってきて、『これが正しい』というものしか探さないことの弊害が出ているのではないですか」
創設71年目で現在は法学部3、4年生の4分の1にあたる約200人が在籍する、東大法学部では最大規模のサークル「東京大学法律相談所」。一般の人からの法律相談に応じたり、大学祭で「模擬裁判」を行うなどの啓発活動につとめている。幹事長の清峰強志さん(3年、21)は「法律は好きですね」と即答する。
「法律というと堅いイメージがあるけど、物事を円滑に進めるためにルールは必要だし、ルールがあるからこそ『それ以外は大丈夫』という『自由』も生まれると思います」
法学部の定員は減ったにもかかわらず、サークルの人数はかつてに比べ増加傾向だ。「東大砂漠」の中でつながりを求める学生が増えていることも要因だが、「社会の役に立ちたい」と官僚を志望している清峰さんは、「社会や経済状況が厳しい中で育ち、小さい時から『社会をなんとかしなければ』という危機感を抱いているのが自分たちの世代だと思います」。