日本の学歴社会の頂点に君臨してきた「東大法学部」。政財官に人脈を伸ばし、国を支えてきたえたエリートたちの母体だ。良くも悪くもスタイルを変えてこなかった「象牙の塔」にも、時代の激変の波は押し寄せる。偏差値序列社会は終わるのか。かつて「砂漠」と称された東大法学部はいま、脱皮の時を迎えている。AERA 2017年3月27日号では、東大法学部を大特集。
東大法学部の人気凋落──そんな声が近年ささやかれている。官僚も政治家も弁護士も魅力がない。だったら法学部に行かなくてもいい。意識の高い学生が逃げ、法学部にはやる気のない学生がたまっている? 取材をしてみると、先入観を超える意外な「ニュータイプ法学部生」が育っていた。
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<「文I→法」の人気低迷に迫る 授業・試験に不満? 「つまらない」「一方通行の講義」>
週1回発行される学生新聞「東京大学新聞」の2016年9月6日号1面の見出しだ。
数多くの官僚や政治家、法曹関係者が輩出する東大法学部。三権と金融にまんべんなく人脈が広がる日本のエリートの代名詞だ。
日本の文系学部では最難関の東大教養学部(前期)文科一類(文I)に入学した学生の多くが、3年次に法学部を「進学」先としてきた。だが、その様相が近年変わり、記事によれば文Iから法学部以外を志望する学生が、2008年度の19人から2017年度は76人と4倍に膨れ上がったのだ(第1段階第1次志望時)。文Iの定員は約400人だから、4分の1近くが法学部以外に進学を希望していることになる。
●受講が苦痛な授業も
明治期は後進国だった日本にとって、国を引っ張る役割を果たしてきたのは官僚だ。その養成機関の役割が与えられてきた東京帝国大学→東京大学法学部。だが高度成長期が終わり規制緩和の時代になってから官僚の地位は下がり、東大法学部の輝きも失われた──『東京大学 エリート養成機関の盛衰』などの著書がある京都女子大学客員教授の橘木俊詔さんは、こう分析する。
「天下りが難しくなり、官僚から政治家というコースも、首相は宮澤喜一以降出ていない。それだけ、官僚になるメリットが減ったわけです」