トランプ米大統領の登場で先が読めなくなってきた国際情勢。だからこそ、見えにくい事実をあぶり出す新しい地図に注目したい。VR(バーチャルリアリティー)やスマホアプリで地図の世界もどんどん進化している。ブラタモリなど街歩きブームの極意もルポする。AERA 2月20日号では「地図であぶり出す未来」を大特集。
「地政学」と銘打った本が次々と出版されている。軍事と結びついた地政学は戦後タブーとされたが、混沌とした世界を見る際の羅針盤となるのか。安倍政権にも見られる地政学ブームとは何なのか? 防衛省防衛研究所 国際紛争史研究室長である石津朋之さんへのインタビューとともに解説を紹介する。
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出版界はいま、「地政学」ブームだ。トランプ政権入りしたピーター・ナヴァロ氏が書いた『米中もし戦わば 戦争の地政学』(文藝春秋)。昨年11月の発売時は初版1万部だったが、いまや5万3千部。国際政治の翻訳ものでは異例の売れ行きだ。防衛省幹部の多くも読んでいる。
本誌執筆陣の一人で、元外務省主任分析官の佐藤優さんの『使える地政学』(朝日新書)、『現代の地政学』(晶文社)も相次いで刊行されている。
ロシアのクリミア併合やブレグジット(英国のEU離脱)、トランプ政権誕生など、国際情勢が不透明になっている現状が背景にあるのだろう。
翻って日本の安倍政権。安倍晋三首相が好む「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」という言葉には地政学的な響きがある。この安倍外交を首相官邸で支えるのが、国家安全保障会議(日本版NSC)の事務局である国家安全保障局の谷内(やち)正太郎局長と兼原信克次長だ。
ともに外務省出身。2006年に第1次安倍内閣が打ち出した外交戦略「自由と繁栄の弧」に深く関わった。東欧から東南アジアに至る地域で、民主主義体制への移行や経済発展を支援する構想だ。
当時事務次官だった谷内氏は退官後も安倍氏のブレーンを務める。兼原氏は11年の著書『戦略外交原論』(日本経済新聞出版社)などで積極的に提言を続けた。同書では「自由と繁栄の弧」が「中国封じ込めと勘違い」されたと述べている。
第2次安倍内閣が13年にまとめた日本初の国家安全保障戦略にも2人は関与。海洋国家日本に不可欠なアジア太平洋安定のために日米同盟強化をという指針で、トランプ政権に理解を求めている。