1959年、ニュージャージー州出身のマーク・レイ。現在、日本での就職活動の資金を集めるクラウドファンディングを実施中
1959年、ニュージャージー州出身のマーク・レイ。現在、日本での就職活動の資金を集めるクラウドファンディングを実施中
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 彼の名前はマーク・レイ。モデル出身のファッション写真家で、ごく普通の“勝ち組”に見えます。でも、実はマークは、ホームレスだったのです──。

「珍しい話でしょ? そうはないよね」

 と、チャーミングに微笑むマーク・レイ。「ホームレス ニューヨークと寝た男」は彼の暮らしを追ったドキュメンタリーだ。

 1990年代からモデル活動を始め、演技や写真を学んだ。いまはニューヨークの街でファッションスナップを撮り、映画に俳優として出演することもある。だが彼が帰るのはビルの屋上。合い鍵でこっそり忍び込み、コンクリートの隙間でビニールシートと段ボールに囲まれて雨風をしのぐ。いったい、どうしてこんな生活に?

お金もないし、そうする必要があったから。自分の生き方を変えたかったこともある。それにやっているうちに『けっこう冒険かも!』という気にもなってきたんだ」

●大都会でのサバイバル

 屋上暮らしを始めたのは2007年からだ。その日常はとにかくユニーク。スポーツジムのロッカーに荷物を保管し、ジムで体を絞ったあとロッカールームでシャツへ丁寧にアイロンをかける。朝は公衆トイレで歯を磨き、スーツ姿で街へ出ていく。

「自分をホームレスと呼んだことは一度もなくて“アーバン・キャンパー”と呼んでいるよ。家がないことは確かだけど、人生にギブアップしたわけじゃない。演技や写真を続けているし、常に与えられた状況のなかでベストを尽くそうとしてきたんだ」

 確かに「持たない人生」のチャレンジを楽しんでいる姿にウソはない。だが極寒の夜に寝袋にくるまり、ときおり「こんなはずじゃなかった」と心境を吐露もする。そんな正直さが観客の胸を打つ。

「あのころは自分自身にいらだっていたし、恥じることもあった。『なぜ、こんなことになったんだ?』『自分は何も達成できてない』ってね」

 自暴自棄にならずに、どうやって心を保てたのだろう?

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