卯月妙子(うづき・たえこ)/1971年、岩手県生まれ。漫画家。かつてAV女優としてカルト的な人気を誇った。著書に『実録企画モノ』『新家族計画』(太田出版)、『人間仮免中』(イースト・プレス)ほか(撮影/写真部・小原雄輝)
卯月妙子(うづき・たえこ)/1971年、岩手県生まれ。漫画家。かつてAV女優としてカルト的な人気を誇った。著書に『実録企画モノ』『新家族計画』(太田出版)、『人間仮免中』(イースト・プレス)ほか(撮影/写真部・小原雄輝)

 前作『人間仮免中』で、壮絶な生き方と統合失調症の現実を描ききった漫画家・卯月妙子。続編は“ボビーさん”との愛の日々を描いた。

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 前作『人間仮免中』(イースト・プレス)から4年半、卯月妙子の新刊『人間仮免中つづき』(小学館)が発売された。

 統合失調症の症状、歩道橋から飛び降りた末の顔面粉砕骨折、右目の失明など、衝撃的な実話を丹念に描きながら、全体に貫かれた25歳年上の通称“ボビー”との関係によって「愛の物語」に着地している前作。

 やむを得ない事情によるボビーとの別居が、実に5年もの長きにわたったことが、前作の最後でさらっと語られている。さらにその間、自身の病状は過去に例を見ないほど悪化したということが、今作の「まえがき」で、これまたさらっと語られている。この5年間のことを詳しく描かなかったのは「ボビーとの生活を描きたかったから」だと卯月は言う。その言葉どおり、漫画は再び二人が同居するところから始まる。

●老いと病を描く

「今回のテーマは『老いと病』だったんです。ボビーが70歳のおじいちゃんになって体にガタがきて、私は病気が重くなって、その中でどうやって希望を見つけていくかということを、二人でずっと模索してきたので」

 エキセントリックな卯月と癇癪持ちのボビーという組み合わせゆえ凄絶なケンカが繰り広げられるのは前作同様だが、今作では互いに向けられた愛と感謝と労りがさらに深くなっているのが感じられる。老いゆく相手と向き合い、病む自分と向き合う。そして相手も同じように、老いゆく自分と向き合い、病む相手と向き合う。その濃密な、どこにも逃げ場のない日常の一コマ一コマが、かけがえのないものとして丁寧に描かれていく。

「絵は300枚くらい描いて練習しました。前回、ひどすぎたので。こういうことを言っていいのかわからないんですけど、前回は半分ノリで描いたというか、リハビリというか……ボビーと離れている欲求不満がつらつら漫画になっちゃったみたいなことだったんです」

 アシスタントもなしでコツコツ描き上げたという。

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