記述式の導入の効果については、豊富な実例をもとに実証的に検証し、オープンに議論すべきです。文科省は11月から実証実験を始めていると聞きますが、その中身は公表されていない。いまは判断するエビデンスすらない状況です。
2020年度から、という時期の根拠もわかりません。「何が何でも」というのは学問の世界とはかけ離れた考え方で、もっとアカデミックに冷静に検証すべきでしょう。
●センター試験に妥当性
──記述式を入れないと、センター試験と同じ形になります。
センター試験は、評価したい能力の高低が、得点にきちんと反映されるという点で、かなり妥当性が高いと思います。国語でも、400字の文章を書かせて採点するのは大変ですが、長文の中で、この一文をどこに入れるか、という問いで記述力をある程度見ることができます。センター試験の資産を再点検し、それに改善を加えていくのが現実的で有効な方向でしょう。
記述式はすでに各大学の独自試験に入れられており、東大でも例えば数学はA3の白紙の解答用紙に、証明などを記述していく形式です。国立大学で記述を課しているのは募集人員の4割だという批判がありますが、その言い方は誤解を招くと思います。国語に限るとそうかもしれませんが、センター試験で国語を受けるので2次に国語がなく、数学や英語、理科などで記述を入れている例はかなりある。逆にすべて選択式という国立大学はないと思います。もちろん、国語を含め、従来の記述式が適切な形になっているか、検証し改善する必要はあるでしょう。
●多額支出に見合うのか
──入試における多様な評価という面では、東大では今年から推薦入試を始めましたね。
これまで、ペーパーテストはすごくできるけど卒論のアイデアが全然出ない学生や、その逆の例も見てきました。ペーパーテストでは測れない優れた能力を持つ学生が入ることで、授業でのディスカッションが活性化し、他の学生にも良い刺激になることを期待しています。3千人中100人が推薦枠です。推薦入学者の追跡調査も始め、かなり良い感触を得ています。入試だけでなく、「初年次ゼミナール」という取り組みも始めました。1年生からテーマごとに仮説を立てて検証し、研究成果をプレゼンすることで能動的に学ぶ姿勢を身に着ける目的です。
国立大学はいま、運営費交付金が削減される中、外部資金の獲得に力を入れ、何とか研究・教育の水準を高めていこうと努力しています。日本は教育に対する公的支出が先進国中でも非常に低水準な中で、新テストに多額のお金をかけることの是非についても考えてほしいですね。
(編集部・石臥薫子)
※AERA 2016年12月19日号