「兵器の性能は日本が圧倒的に勝り、尖閣周辺の局地的な戦いでは負けないが、自衛隊ができるのは公海上に来襲する艦艇や航空機を排除する攻撃に限られる。大もとの物資や燃料の補給路を断つためであっても、中国本土を攻撃することは憲法上できず、長期的な戦いになれば、米国の援助なしには勝てない」
小原さんはこう指摘する。
「仮に在日米軍が撤退し、その代わりに日本が軍事力を強化し、核でも持とうものなら、韓国も同様の動きをとると考えられる。アジア太平洋地域の主導権を握ろうとする中国にとっては、それが最悪のシナリオだ」
一方で、日本に差し迫った脅威と、識者が口をそろえるのが北朝鮮だ。軍事ジャーナリストの黒井文太郎さんはこう話す。
「同じ独裁国家でも、中国は巨大な官僚組織が国を統治している。その点、北朝鮮は金正恩に権力が集中し、仮にアラブの春のような内部崩壊が起これば、自暴自棄となって核ミサイルの発射ボタンを押す可能性もある」
現在、北朝鮮が保有する核弾頭の数は20発程度。日本全土を射程に入れる弾道ミサイル「ノドン」は、核弾頭を搭載可能と見られ、すでに実戦配備されている。黒井さんは言う。
「あくまで対米抑止力の核であり、日本にだけ撃ってくることは考えにくいが、仮に複数の核弾頭ミサイルを撃ち込まれれば、100%は防げない」
自衛隊の弾道ミサイル防衛(BMD)は、海自のイージス艦(SM3)4隻と、空自の地対空誘導弾(PAC-3)の2段構え。黒井さんによれば、1隻のイージス艦で迎撃できるのはせいぜい数発。PAC-3も射程が半径20キロ程度で、迎撃には限界があるという。(編集部・澤田晃宏)
※AERA 2016年12月12日号