「日本の穀物生産量は1千万トン程度。対してイギリスは、人口は日本の半分、国土面積も3分の2ですが日本の倍以上の穀物を生産しています。日本が食糧生産小国で済んでいるのは、年間3千万トンの穀物を輸入しているからです。つまり穀物は不足しているのです。にもかかわらず、この40年間、国産は過剰といわれてきた。いわば過剰と不足が併存しているのが日本の農業の問題であり特徴です。これが消費者に“食糧は安心”という錯覚を抱かせてしまっているのです」
●高齢者に頼る国内農業
これまではいくらでも安く良質なものが海外から買えた。しかし、中国やインドなど新興国の需要が拡大し「そんな環境は終わった」と柴田氏は指摘する。
改めて国内農業が見直されつつあるが、農業の衰退は止まらず、もはや消費者の期待に応える生産力はないと柴田氏は嘆く。
「農業就業人口は1990年の482万人から10年には260万人に減少。平均年齢は当時で66歳。やめたがっている農家は多いのです」
これで日本が将来TPPに加盟すれば、農業の衰退は加速すると関係者は危惧する。
「食の安全性も脅かされます。BSEや口蹄疫など、食の移動に伴って感染症の拡大も懸念されます」(柴田氏)
もし、輸入ゼロになったら。鈴木氏はこう予測する。
「野菜や果物は作れるので、なんとかしのぐことはできるはず。ただ基礎食糧の穀物が手に入らない。数年間輸入ゼロなら降伏ですよ。農水省の『食料・農業・農村基本計画』には、輸入ゼロになったときの食事メニューが載っているけど、イモばっかり。校庭でイモを作れと言わんばかりで、まるで戦時中の話」
ちなみに農水省が想定する“国内生産のみで食料を供給するときの1日のメニュー例”(平成21年版ジュニア農林水産白書から)が冒頭の献立だ。
戦時中は甲子園球場がイモ畑になったという逸話がある。現在でも需給ショックの種はいくらでもあり、10年以内に危機的状況に陥っても不思議ではない。
対策のひとつは、地産地消、旬産旬消の意識を高めることだと関係者は口をそろえる。地域ごとに循環型のコミュニティーが活性化することで、国内農業を守ることにも繋がるのだ。(ライター・内山賢一)
※AERA 2016年12月5日号