飽食と飢餓は表裏一体の関係。人類は根本的な問題を解決していないことも覚えておきたい。

 では、今後も畜産物消費が増えるとどうなるのか。世界で食糧の取り合いになると語るのは東京大学教授の鈴木宣弘氏。
「異常気象が恒常化した近年では、不測の事態がいつ起こっても不思議ではありません。現在の食糧市場は需給にショックがあると価格が暴騰しやすい状態。不測の事態になれば高値期待の投機マネーがどんどん入る。すると不安心理で穀物の生産国が自国の食糧を守ろうとして輸出規制を始める。そうなるとお金をいくら出したって、どこからも買えなくなりますよ」

 そもそも米国やEUは、食糧に対して日本と違う認識を持っているという。

「米国は“食糧は武器”という認識。軍事、エネルギーと並ぶ国家存立の3本柱であり、戦争ばかり続けたブッシュ前大統領は“食糧自給はナショナルセキュリティーの問題”といって農業関係者にお礼を言っていました。EUも共同体であるにもかかわらず、各国は穀物の食糧自給率を高いレベルで保っている。いざというときに備えておかないと危ないからです」(鈴木氏)

●食糧は武器という戦略

 食糧は国を守る重要な安全保障の要。その認識から先進国では国を挙げて農業を守っていると鈴木氏は続ける。

「例えば米国のコメ生産コストはタイやベトナムの2倍近くかかります。それでも1俵4千円ぐらいの安価で輸出しています。日本では1俵1万2千円ぐらいが農家に必要な額とされていますが、米国では農家に対して差額を1兆円も使って補填しています。それに比べたら、日本の農家に輸出補助金はゼロ。日本の農業が過保護だというのは間違いです」

 こうした状況の中、日本の食糧事情を眺めてみると不安になる。農林水産省の資料によると15年度の食料自給率(カロリーベース)は39%。基礎食料である穀物の自給率は28%(11年試算)と先進国の中でも際立って低い。輸入額に比べて輸出額が少なく、世界1位の農産物の純輸入国となり、安全保障の要を海外に依存している状態だ。柴田氏は日本の食糧生産を主要国と比較してみると改めて驚かされると話す。

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