●強い保守系メディア
そもそも米国の新聞購読者は日本よりもかなり少ない。人口1億2千万人の日本で、約4500万部の新聞が日々読まれているのに対し、3倍近い人口の米国での新聞発行部数は、約4千万部で日本よりも少ないほどだ。世界のメディアが米国の状況を知る「指標」としてきたニューヨーク・タイムズの発行部数はそのうちの200万部だ。
トランプ支持者は、こうした高級感が“鼻につく”メディアではなく、購読料を払わなくてもいい保守系、極右系のラジオやオンラインメディアに走った。
日本ではあまり知られていないが、中立系のCNNは最も見られているニュースチャンネルではない。トランプを強力に支えた保守系のFOXニュースが、プライムタイム(20~23時)でCNNの2.5倍以上の視聴者を獲得している。主に地方に住む保守的な視聴者が、都会のリベラルな視聴者の数を大幅に上回って、FOXの保守的な論客の発言に溜飲を下げていることがわかる。ケーブルニュースはトランプに優位に働いた。
●トランプの助言で成功
さらに、トランプには、テレビ界での「露出の蓄積」があった。クリントンが、有権者に対して、トランプほどの親近感を抱かせられなかったのは、彼ほどテレビに出演していなかったことも大きい。
ニューヨークが中心だった“不動産王トランプ”を全米ブランドにしたのは、2004年に始まったリアリティーショー
「ジ・アプレンティス(見習い)」だった。起業を目指す複数のチームに課題を与え、1話ごとに敗者が脱落、最終話に勝者が決定する番組だ。各話の終わりにトランプが「お前はクビだ!」と、厳かに宣言するのが、人気の決まり文句だった。トランプが11年間ホストを務めた同番組は、最高の視聴者数が2800万人に達した。
トランプの大統領選の集会で、自営業者が「『アプレンティス』を見て、事業の拡大に役立てた」という話をよく聞いた。
「英会話学校を運営していて、トランプの言っていたことを実行したら成功して、分校を開くまで成功しました」(ペンシルベニア州在住の女性)
ワシントン・ポスト、MSNBCなども、トランプに大統領としての「資質」が欠けていると懸命に伝えていた。しかし、こうした報道は、ほとんどのトランプ支持者には届かなかった。
大統領選で敗北したのはクリントンだけではない。主要メディアも完敗だった。(文中敬称略)
(ジャーナリスト・津山恵子)
※AERA 2016年11月21日号