地方テレビ局が、地元の問題を深く取材したドキュメンタリー映画が、相次いで公開されている。訴えていることは、地域特有の狭いテーマではない。
牛のイラストが描かれた表紙の「牛日記」が画面に映る。「わたしがバスからでたらかおをあげてわたしをみていました。わたしは、おかえりといっているのかと思いました」
テレビ新潟の「夢は牛のお医者さん」(2014年)は、小3の高橋知美さんが獣医師になる夢をかなえるまでを追ったドキュメンタリーだ。
●素朴さにほれ27年通う
1987年、新潟県松代町(現十日町市)の山あいにある児童9人の小さな小学校に、3頭の子牛が「入学」した。面白そうだと取材しに行ったテレビ新潟の時田美昭さん(56)は、児童たちの素朴さに「すっかりほれちゃった」。中でも知美さんに密着。時にローカルニュースで、時に全国ネット番組でと、足かけ27年間にわたって追い続けた。
映画化のきっかけになったのは東日本大震災だった。04年の新潟県中越地震で山古志村(当時)を取材した時田さんは、その時聞いた避難住民の声が忘れられなかった。
「『がんばれ』と言われるのがつらい。これだけがんばっているのに……」
知美さんの話を、東日本大震災の被災者に届けたい。「『がんばれ』ではなく、自ら『がんばろう』と思える映画にしたかった。誰が見てもわかるように、丁寧に作りました」(時田さん)
福島県と岩手県では無料上映もした。
「夢は牛のお医者さん」が「静」だとしたら、琉球朝日放送(QAB)の「標的の村」(13年)は「動」だ。舞台の一つは、米軍基地返還の条件として日本政府がヘリパッド建設を進める沖縄県東村高江。住民らが、命がけで建設を阻止しようとする様子が撮影されている。
監督の三上智恵さん(52)は95~14年、キャスターとして沖縄の基地問題を取材してきた。映画では、台風の中、人々が警察の裏をかいて、普天間基地を包囲する姿が映し出される。この映像を記録した放送局は、QABだけだった。