三田労基署の労災認定を受け記者会見に臨んだ母の幸美さん。自殺した日の朝に「今までありがとう」とのメールがあった (c)朝日新聞社
三田労基署の労災認定を受け記者会見に臨んだ母の幸美さん。自殺した日の朝に「今までありがとう」とのメールがあった (c)朝日新聞社
電通は1991年にも入社2年目の社員が自殺。2000年に最高裁で「会社は過労で社員が心身の健康を損なわないようにする義務がある」と責任を認定された。今回の件で東京労働局は電通の本社などを立ち入り調査した (c)朝日新聞社
電通は1991年にも入社2年目の社員が自殺。2000年に最高裁で「会社は過労で社員が心身の健康を損なわないようにする義務がある」と責任を認定された。今回の件で東京労働局は電通の本社などを立ち入り調査した (c)朝日新聞社

 入社1年目の電通社員高橋まつりさん(当時24)が、過労自殺に追い込まれた。その死は電通だけでなく、私たちの働き方、日本社会も大きく揺さぶっている。

 2014年の春、当時東京大学文学部の4年生だった高橋まつりさんは、広告大手、電通の内定を決め、SNSで知人にこう報告した。

「マスコミ関係の仕事であること、職種の異動があり出来ることの幅が広いこと、新しいコンテンツをつくりだしていけること…などを重視して選びました」

 そんな希望を語っていたわずか1年半後の15年12月25日金曜日、高橋さんは都内にある電通の女子寮4階の手すりを乗り越えて飛び降り、亡くなった。今年9月、三田労働基準監督署は高橋さんの自殺は長時間の過重労働が原因として労災を認定。

 当時、彼女はインターネット広告を担当する部署に所属していた。試用期間後に正社員になると、10月以降1カ月の時間外労働が労基署認定分だけでも約105時間に。過労死ラインとされる80時間を大きく上回った。母親の幸美さんは今月の記者会見で、「労災認定されても娘は戻ってこない」と訴えた。

 高橋さんは静岡県の私立高校から東大に入学。母子家庭に育ち、塾にも通わず時には1日12時間も猛勉強して大学合格を決めた。マスコミに興味があり、「週刊朝日」で配信していたインターネット動画番組のアシスタントを務めたことも。当時の高橋さんを知る知人が振り返る。

「おしゃれもするし、ミスチルが好きな今どきの大学生という雰囲気。でも番組ゲストの下調べもきちんとするし、叱られてもへこたれない芯の強さがあった。裏方の仕事もきちんとできる、本当に頑張り屋さんでした」

●SNSに激務の記録

 ハードワークに耐えられないような子ではなかった、とこの知人は強調する。だが電通では、そんな彼女すら死に追いやるほどの激務が課せられた。高橋さんのツイッターには、長時間労働の実態が垣間見える書き込みがひんぱんに登場する。

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福井洋平

福井洋平

2001年朝日新聞社に入社。週刊朝日、青森総局、AERA、AERAムック教育、ジュニア編集部などを経て2023年「あさがくナビ」編集長に就任。「就活ニュースペーパー」で就活生の役に立つ情報を発信中。

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