偉い人が印刷されているだけの紙が、国が保証することで「お金」になる。その常識が、覆る日が近いのだろうか。
小さな部屋に、3人の人物が座っている。AはBに1万円を渡し、Cはそれを見届けてから紙片にこう書き留めた。
「AはBに1万円を渡した。Cはこれを見届ける」
3人にとっては疑いようのない事実だが、部屋にいなかった人々にとっては違う。彼らは現場を見ていないし、Cがウソをついたかもしれないからだ。
驚くようなことだが、ビジネスの世界ではこれまで、AとB間の現金受け渡し過程を「うそ偽りなく行われた」と、完全立証する方法はなかった。その証拠に、企業活動で不正は何度も起きている。東芝の不正会計に始まり、三菱自動車の燃費データ改竄など挙げればキリがない。企業統治の重要性が叫ばれ、厳しい内部監査体制が敷かれても、不正は網をすり抜ける。なぜか。
●「完璧」な監査の可能性
監査は、人間の限界を超えられないからだ。「敵」は必死になって隠蔽(いんぺい)を試みるし、監査する側が情に流されることもある。複雑化したデータの齟齬を見つけるのも、至難の業だ。
だが、プログラムなら別だ。彼らは疲れることを知らないし、情に流されることもない。いま「完璧」な監査人になれる可能性を秘めたテクノロジーが、ある領域から誕生した。
昨年以降、バズワードになっている「フィンテック」(=ファイナンスとテクノロジーを合わせた造語)がその揺りかごだ。金融は伝統的で保守的な「レガシー領域」だったが、いまここで、情報工学の力が破壊的自由を生み出そうとしている。2016年の投資額は、日本円に換算すると世界で2兆4千億円と、過去最高を更新する見通しだ。
このことが金融を、銀行などの既存プレーヤーだけのものから解放しようとしている。
●アマゾンが融資に活用
たとえば、12年に設立されたIT企業「マネーフォワード」(東京)は、スマートデバイスにおける家計簿管理を実現。日々の出入金にとどまらず、まとまった資産運用の動きもフォローできる。ネット通販で急成長した米アマゾンは、法人向け融資サービス「アマゾンレンディング」を始めた。膨大な商取引データを持っている自社の強みを生かした新サービスだ。事業者の返済能力は、取引データから割り出す。銀行なら数週間かかるところを、わずか5日間で貸し出しが実行される。