●今の値動きは投機的
設立は14年1月。その翌月の2月末、別の取引所「マウントゴックス」で取引停止事件が起きた。その後の捜査で、事件はシステムの脆弱(ぜいじゃく)性や内部横領により引き起こされたもので、ビットコインの暗号技術に欠陥があったわけではないことがわかったものの、逆風の中での船出ではあった。ユーザー数は少なく、メディアからの取材もゼロ。
潮目が反転したのは、昨年秋以降のフィンテックブーム。きっかけは、米NYベンチャー「R3CEV」が発表した構想だ。バークレイズ、クレディ・スイスなど世界の大手9行が参加を表明し、将来的なブロックチェーン技術による情報網構築を発表したのだ。ビットコインへの注目が息を吹き返した。
投機目的のユーザーが多いことから、現在の値動きは激しいが、加納は「あと数年で、次のステージに移行するのでは」と見る。
「取引の参加者がある規模に達すると、価格変動はなだらかになる。そうすれば、社会への浸透も一段と進むのではないか」
加納はそうみるが、この8月にも70億円超のコイン紛失事件が、香港のビットコイン取引所で起きた。マウントゴックス事件に次ぐ「不祥事」に市場は反応し、取引価格は一時20%超下落。「こんな通貨は信用ならない」という声も上がったが、加納はこう話す。
「インパクトはもっと大きいかと思ったが、下げ止まって安定した。今後は、顧客自身がコインの鍵を管理することが必要ではないか」
前出の大石も、
「FX(外国為替証拠金取引)と同じで、取引所に預けっぱなしはいけない。しかし、取引所がハッカーに狙われるリスクはあっても、ビットコインの暗号技術は突破されていない。別問題として考えるべきです」
と強調する。
●メガバンクも開発参入
現在のビットコインの時価総額は約1兆円。前出の杉井は「世界の金融市場を回すなんてあり得ない」と指摘するが、別の仮想通貨が大規模に使われたら様相は一変する。それを予感させる動きが、水面下でうごめき始めているのも事実だ。