もはや手放せない存在となった携帯電話(スマートフォン)。東日本大震災が起きた時、音声通話は繋がりにくかった。飛躍的に充実させたというキャリア各社の対策とは。
「ツーツーツー」
連絡を取ろうとリダイヤルしても、一向に呼び出し音さえ流れない。メールを送っても返信がない……。2011年3月11日午後2時46分過ぎ、そんな経験をした人は少なくないはずだ。それから1カ月半後、NTTドコモの山田隆持社長(当時)は会見でこう語った。
「音声は80%ぐらい(通信)規制がかかったのでなかなか繋がらなかったが、メールは電話と比べると明白に繋がった。メールの場合、30%規制を5~6時間ぐらいかけただけで、それ以後の規制はなかった」
震災直後は単純計算して、5回に1回しか電話が繋がらない状況だったというのだ。なぜ、このような状況に陥ったか? NTTドコモ災害対策室室長の池田正氏は次のように話す。
「11年3月12日時点で、東北地方にある基地局1万1千局のうち、4900局が停波していました。主な理由は長時間の停電によるバッテリーの枯渇。地震により太平洋側を走る光ファイバーなどの伝送路も断絶した。一方で、音声通話は通常時の50~60倍にも増加。ネットワークがダウンして警察・消防等の通信も落ちる可能性があったため、規制をかけざるを得なかった」
●熊本ではわずかな規制
KDDI(au)、ソフトバンクモバイル(現ソフトバンク)も然り。日を追うごとに通信の復旧は進んだが、全面復旧までに1カ月以上の月日を要した。首都圏直下型地震に見舞われた場合、同様の状況に追い込まれる可能性は小さくない。防災アドバイザーの高荷智也氏が話す。
「被災直後に100%の音声通話を確保することは困難。『119番』などの重要通信の確保が最優先となるためです。一般の音声通話は3.11時同様、繋がりにくい状況に陥ると考えられる」
とはいえ、その復旧スピードは3.11時と比較にならないほど向上している。今年4月の熊本地震発生時の携帯キャリア各社の動向を追ってみよう。
総務省がまとめた「停波基地局数の時間推移」を見ると、4月16日未明に起きた本震により、ソフトバンクでは250近い基地局が停波。ドコモ、KDDIはともに70~80基地局がサービス停止に追い込まれた。だが、通信規制がかかったのはごくわずかの間だった。ソフトバンクは「発生直後に音声通話に50%の規制をかけたが3時間で解除した」(災害対策部部長・木村潔氏)。KDDIも「音声通話が通常時の10~20倍に増加したことで通信規制をかけたが、数時間で解除」(特別通信対策室室長・木佐貫啓氏)。一方、ドコモは「発信規制をかけなかった」(池田氏)というのだ。
背景にあるのは、格段に向上した各社の災害対策だ。携帯キャリア3社合わせた移動電源車・可搬型発電機は、3.11時よりも2.7倍増加。予備バッテリーの24時間化が図られた基地局数は5.9倍にも増えた。3.11で停波の主たる原因となったバッテリー枯渇の対策として、こうしたハードがフル活用されたのだ。