電気、ガス、水道などのライフラインの停止、物流の混乱──。体力が奪われストレスがたまる非常時こそ、食生活が重要。何を、どうやって食べる?
災害時、命からがら助かったら、次に必要なのは食生活などの健康管理だ。熊本地震の際は、電気復旧までに約1週間、ガスに約2週間。水道復旧には1カ月以上かかった地域もある。満足に調理ができない状況での食生活はどうすればいいのか。
そんな思いで東急ハンズ新宿店の災害食コーナーを訪れた。さまざまにデザインされたパッケージに包まれた災害食。その種類の多さに驚かされる。常温で食べられるカレー、缶に入ったふわふわのパン、パウチされたサバのみそ煮……。水やお湯でご飯に戻せる「アルファ化米」は五目やえびピラフ、ひじきなど、味付けもさまざまだ。水を加える黒みつきなこ餅など、デザートまで揃う。どれも常温で長期保存が可能だ。
●家庭備蓄は何日分?
以前は3日分を家庭備蓄で、というのが通説だったが、内閣府が2013年5月に出した「南海トラフ巨大地震対策について(最終報告)」では1週間分以上の家庭備蓄が望ましいとされ、それが常識になりつつある。どういうものを、何日分備えればよいのか。日本災害救援ボランティアネットワーク理事で、甲南女子大学名誉教授の奥田和子さんに聞いた。
「初期は人命救助が優先されますので、飲み物すら手に入らないこともあります。最初の3日分の食料と飲料はリュック型の非常持ち出し袋に入れておきましょう。持ち運びやすく、軽量の非常食があればいいです。食欲もなくなるので、遠足に行く気分で好きなものを備えて」
スナックバーやアルファ化米などおなかの足しになるものと、お菓子や果物の缶詰など心がホッとできるようなもの、両方あるとよい。ゴミが出しにくいので、個別包装で食べきれるものというのもポイントだ。
4日目以降は食欲も回復し、健康にも気遣いが必要となる。だが、まだライフラインが復旧しないので、最初の3日分と同じように煮炊きせずに食べられる災害食があるとよい。
「主食だけでなく、野菜や肉、魚などおかず系の缶詰なども用意して、多少は栄養バランスを考えた献立を組み立てておきたいですね」(奥田さん)
特に不足しがちな野菜類は、積極的に自助で備えておくべきだという。
●災害食も味見を
編集部で災害食を試食してみた。お湯が簡単に手に入らない状況を想定しアルファ化米に水を注ぐ。お湯だと約15分で済むが水だと約60分。だが、見た目はお湯で戻した時と変わらずにふっくらとし、味もおいしい。さらに水が手に入らないことを想定し、アルファ化米の白飯を市販のお茶やトマトジュースで戻してみた。結果、トマトジュースは「リゾットみたい」で、お茶は「水で戻すより香ばしくておいしい」という意見が出た。
試食の結果、圧倒的人気だったのは、温めずにそのまま食べられる、グリコの「常備用カレー職人」。3袋入りで350円(税別)とお手頃。通常の温めるレトルトと味わいは変わりなく食べやすい。長期保存用の缶入りパンにかけたり、味付きのアルファ化米にかけたり。災害食の加工食品っぽさが苦手という人も「カレーをかけると何でもおいしく食べられる」。
買ってきた災害食は一度味見をしておいたほうがよい。
「食べてみて好きじゃないと思ったら備蓄から外したほうがいい。じっとしていても目に涙が浮かぶ状況下で、まずいものは食べられません」(奥田さん)
家庭備蓄の場合、「ローリングストック法」もおすすめだ。専用の災害食を用意するのではなく、賞味期限が6カ月程度の普段食べている好物や飲料を多めに買っておき、定期的に古いものから食べていく。食べた分だけ買い足し、常に新しい非常食を備蓄する方法だ。(編集部・柳堀栄子)
※AERA 2016年9月5日号