「ノアの箱舟は、ディズニーのようなテーマパークではない。これを造ったのは、宗教的な理由だ。キリスト教信者としてメッセージを伝えるために造った」
世界は神が6千年前に6日間で創造したと信じるハムらのグループは、建設費約1億ドルを信者の寄付で賄った。同紙によると、建設に関わった従業員には「信仰の声明」にサインをさせ、教義に同意しない人や同性愛者は雇用しなかった。さらに、人工中絶賛成派、無神論者、同性愛者などの「悪」が「蔓延」する現代については、
「世俗化が進む今日は、まさにノアの時代に似通ってきている」(ハム)
と同紙に語っている。
南部テキサス州ダラスから来たという自称「イエス・キリストオタク」、パトリック・ブライデニック(52)は、記者のために祈りたいと手を握ったまま、こう言った。
「箱舟はあったのだと信じている。創世記が記された死海文書だって発見されている。紀元前のものだ。自分の中のイエス・キリストが、キリスト教のメッセージをいろんな人に伝えるようにと言うので、やって来た」
旧式のカメラを記者に渡し、記念撮影を頼んできた老夫婦も、満面の笑みで臆することなく言った。
「箱舟を信じているわ。一生の思い出になる」
入館記念の合成写真を見ると、記者の横には、背に鋭いとげのある恐竜が、チーターやチンパンジーとともに写っていた。地球の年齢は約45億歳で、恐竜の時代には人類は誕生しておらず、動物は進化により種を増やしてきたという現代の常識は、館内では完全に無視されている。
●「トランプ氏とともに『神』を再び降臨させる」
テレビで人気の科学者ビル・ナイ(60)は、ケン・ハムと2014年に行った討論会で、こう警鐘を鳴らした。
「私たちは、科学的なことを全く知らない子どもたちを育ててしまうことになる」
箱舟の存在を信じて疑わない白人たちで埋め尽くされた博物館を後にしてから2日後。オハイオ州クリーブランド(人口約39万人)にたどり着いたとき、記者はデジャヴ(既視感)に襲われた。7月19日、実業家ドナルド・トランプを大統領候補に選出した共和党大会の会場周辺では、中西部のキリスト教原理主義者の白人たちが集まり、混沌とした状況を生んでいたのだ。
その前日、トランプの過激な支持者であるロジャー・ストーンらが後援したデモ「アメリカ・ファースト・ユニティー」が開かれた川沿いの公園。司会を務めたブロンドに赤いサマードレスの白人女性が冒頭こう言うと、割れんばかりの歓声が上がった。