「最近はエルニーニョよりラニーニャのほうが卓越していた。それによって世界の平均気温が停滞していたと思われる」
気象庁の「異常気象レポート」によると、98年に大規模なエルニーニョが終息して以降、2013年までにエルニーニョの発生は2回。これに対し、ラニーニャは7回だった。過去の観測データから、日本ではラニーニャになると、夏は夏らしく、冬は冬らしくなることが分かっている。この影響で地球温暖化は抑制された。世界平均気温は停滞気味だったが、日本は猛暑の夏が多かったことは、これで説明がつく。
「自然のゆらぎだとすれば、一時的なもの。近いうちにハイエイタスは終わるでしょう」 (木本教授)
●水蒸気増加で豪雨に
再び地球温暖化が本格化すると、日本はどうなってしまうのか。ここで、今年の九州地方の天候や、茨城県で鬼怒川の決壊をもたらした昨年の集中豪雨を思い出してほしい。
「こうした強い雨の増加傾向には地球温暖化が影響している可能性が高い。温暖化は水蒸気の増加をもたらし、降雨や干ばつの極端化をもたらすと予想されているからです」(木本教授)
東京大学先端科学技術研究センターの中村尚教授も同様に、集中豪雨に警鐘を鳴らす。中村教授は、「気候のホットスポット」ともいえる日本固有の地理的条件も背景にあると話す。
温暖化で気温が上がれば、飽和水蒸気量が増え、雨をもたらす水蒸気の「容量」が大きくなる。注目すべきは、海水温の上昇だ。中村教授らが、過去100年の海面水温の上昇を調べた図が上のチャートだ。日本近海は全海洋で平均した上昇幅よりもかなり大きい。
「暖流が強くなっているのです。全海洋平均の倍くらい早く温暖化しています」(中村教授)
仕組みはこうだ。
温暖化により赤道付近で雨が増えると、風の吹き方が変わって東寄りの貿易風が吹く熱帯の海域がわずかに広がる。その影響は、海洋内部の波とともに太平洋の西側に及ぶ。結果、西側で海の表面の温かい水の層がより北に張り出し、それが、日本付近の黒潮や対馬暖流の強化として表れる。
「ほかの地域も海流の影響を受けるが、東シナ海などはプレート上にあって海が浅い。日本付近はその影響も表れるのです」(中村教授)
●気温上昇だけじゃない
シベリアの温暖化で、浅い海では冬でも海水が冷やされにくくなっている。
「夏の季節風は東シナ海を通ってやってくる。昔は、熱帯からの暖かく湿った気流が海で少しずつ冷やされ、安定化されつつ日本列島に流れてきた。しかし、海が温かくなったいまは、海から熱や水蒸気が補給され、不安定さを保ったまま日本列島に到達するのです」(中村教授)
結果、ちょっとしたきっかけで積乱雲が発達。猛烈な雨をもたらすのだ。中村教授は言う。
「温暖化は、いろんな形をとりながら表れるのです」
日本の気候は確実に変わりつつあるのだ。(編集部・鎌田倫子)
※AERA 2016年8月1日号