英下院議員の7割は残留派だ。多数を占める保守党の議員も過半が残留希望で、民意との間にねじれがある。次の首相にはボリスのようなキャラではなく、内外の政治環境を整えられるリアリストが望ましい。

 EU側の関心事は、英国ショックをいかに収めるかだ。統合への覚悟に欠けるデンマークあたりに離脱ドミノが及べば、欧州は混乱に陥る。重要なのは、来年のフランス大統領選とドイツ総選挙だろう。EU番付1位と2位の政権選択である。

 欧州主要国において大政党は右も左も親EUで、「どちらに転んでもEU与党」というユルイ政治情勢が長かった。ところが、独仏でさえこの振れ幅に収まらない世論が勢いを増し、左右の両端に「反EU」の受け皿ができている。

●今さら大英帝国の夢?

 フランスではマリーヌ・ルペン(47)が率いる右翼政党、国民戦線が、国政選挙で25%を得る実力をつけてきた。大統領選の決選投票に進める支持率だ。弁舌巧みな彼女はフランス第一と移民規制を訴え、マダム・トランプの迫力である。

 ドイツでも、13年にできた政党「ドイツのための選択肢」などが反EU的な政策を掲げ、一定の支持を得ている。

 民心の「EU離れ」は構造的ともいえる。欧州統合への関心が薄れ、ゼロ関税や自由移動など、そのありがたみは昔ほどではない。華々しい導入から18年目を迎えたユーロも、空気のような存在になった。

 一方、弱い政権は内政の不都合をEUのせいにしがちだ。ユーロクラット(在ブリュッセルの欧州官僚)の厚遇ぶりなど、欧州統合はポピュリストの格好の攻撃対象になっている。

 EUが「エリートの、エリートによる、エリートのためのシステム」であることは否定しにくい。統合は、小国分立の欧州がグローバル経済に対応する策ではあったが、草の根への説明が決定的に不足していた。

 英国の投票でEU離脱派が多かったのは、中高年、イングランド、低学歴層とされている。だから、欧州で一旗揚げようかという若者は「大英帝国の夢を捨てきれないイングランドの年寄りが、大した思慮もなく下した結論」と嘆くのだ。

 そもそも、国の将来を左右するような問題を、52対48で決めてよいものかどうか。国民投票という意思決定システムの妥当性もまた、問われている。

「日が沈まぬ帝国」「英国よ、支配せよ。大海原を統治せよ」

 そんな時代の栄光を追い求める国民が1741万人もいるとは思えない。湯が冷めたから足を引き、タオルで拭き始めたくらいの感覚に違いない。

 大英帝国の瓦解をその目で見届けたチャーチルは、21世紀の同胞が下した結論をどんな思いで眺めていようか。(朝日新聞記者・冨永格)

AERA 2016年7月11日号