●客観的で冷静な語り方

 一方、島袋館長は、仲田さんら6人の説明員・学芸員(30~50代)の語りは、来館者からも評判がいいと言う。

「体験者でない人が説明するほうが、かえってわかりやすい部分もあるようですし、体験者の証言映像も活用した展示ですから、私たちがいなくなった後のことも、安心しています」

 島袋館長はほほ笑みつつそう言い切る。

 筆者が複数回訪問した実感でも、証言映像をじっくり見たり、証言集や沖縄戦全体の解説を読んだりするだけでも理解しやすい展示なのだが、それに加えての説明員とのコミュニケーションは、来館者へのほどよい刺激となっていると感じられた。

 佐喜眞美術館は、宜野湾市の普天間基地の敷地の一部返還を勝ち得た土地に存在している。「原爆の図」でも知られる丸木位里・俊夫妻の作品「沖縄戦の図」を前にして、修学旅行生ら来館者に沖縄戦の実相を伝え続けている学芸員、上間かな恵さん(50)は、こう話す。

「体験していないから伝えることはできない、ということはないと思います。この絵を描いた丸木位里も俊も、そうです。たくさんの沖縄戦体験者から話を聴き、ある意味では冷徹な視点を持って描ききっています。体験者がどんなに語っても語りつくせない部分を感じ取り、それを絵の中の大きな余白として表現しているほどです。対象に引きずり込まれ情念だけで描いたのであれば、共感を呼ぶ作品は描けなかったでしょう」

 そう言う上間さんの語り方自体、ある種のクールさを帯びている。チビチリガマでの集団自決(強制的集団死)の悲惨さを語るときも、客観的で冷静な語り方ゆえ、説得力が生まれる。

●目を輝かせて学ぶ姿

 全国初の「戦争遺跡文化財」として知られる陸軍病院壕に隣接する南風原町立南風原文化センターで学芸員を務め、地域の子どもたちの平和学習にも尽力してきた平良次子さん(53)は、力強い言葉を聞かせてくれた。

「皆さん『風化』という言葉をよく使いますが、わたしはその言葉は違うと思うんです。戦争体験を聴く子どもたちにとっては、初めての話であり、新鮮なんです。こちらは、真面目にしっかり伝えればそれでいい。子どもたちは目を輝かせて聴いてくれますよ。だから、風化はあり得ない。そう思います」

 その言葉は嘘ではなかった。同センターでは常設展のほか「慰霊の日」の近づくこの時期には、毎年企画展も開かれている(今年は6月28日まで「戦場の子どもたち」展を開催)。その展示室で同センター制作の最新DVD「南風原の学童疎開」を見た。そこには本へ向かう疎開船と同じ航路の船の上や現地で疎開体験者の高齢者に話を聴く子どもたちの、生き生きと目を輝かせて学ぶ姿が映っていた。すごいことである。

「継承の現場」にいる人の意志と姿勢次第で、「風化」を拒むことができる。そう実感させられる光景だった。(ノンフィクションライター・渡瀬夏彦)

AERA  2016年6月27日号

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