小柳:冒険というか人体実験のようですね。飯崎さんは「人生の落としどころ」とありますが、まだ先なのでは。

飯崎:東京に戻ってくるとき、この10年間を準備期間にしようと思った。肩書をつくるための再就職はやめたい。最後の人生は自分で楽しみたい。でも、退職を目前に「何かやろう」じゃ遅い。僕は手に職もないし、趣味もなかった。環境を変えてみようと海のみえる湘南に引っ越した。靴をごみ袋2袋、洋服を10袋くらい捨てましたね。

 いらないものを排除していくと、自分らしく生きる軸を持てるようになる。50代からは引き算の中で新たに学ぶのだと思う。正直、不安はある。だから自分で選択して定年を迎えたい。

小柳:最後にこれからの生き方について一言。

稲垣:肩書を持たず、自由に生きていくのが目標です。まだわからないけれど、案外いけるんじゃないか。というのは、日本は人口減少で人手不足で、困っている人はたくさんいるわけです。例えば先日、友人がカフェの人出が足りないと言うので、家に泊めてもらいながら手伝わせてもらった。注文を覚え、誰が先に来たかを考え、立て込んでくるとお客さんはイライラしてくるが厨房(ちゅうぼう)に早くしろといっても仕方がなく、指揮者のように全体を盛り上げるのがカフェ店員。お金を払ってもやりたいと思うくらい、深くてめちゃめちゃ面白い。しかも感謝してもらえる。

 50代でそこそこ蓄えもあって、先が見えているなら、人助けをすると考えれば仕事に困ることはない。仕事に対する考え方を変えてみるのはいいと思います。

小柳:「職業 稲垣えみ子」という感じですね。飯崎さんはいかがですか。

飯崎:50歳になって僕は今までにないくらい考え悩んだ。そんな時は無理せず「自分はこうであっていい」という部分を見つけることだと思う。

 湘南に移ってから、波乗りやって、ウクレレ弾いて、無農薬の野菜を作った。するといろんなことが見えてきた。自分らしさの生き方をゆっくりと準備していけば大丈夫かなと思います。

小柳:稲垣さん、飯崎さんありがとうございました。