<取り組んでも取り組まなくても怒られる。ならばはじめからやらないほうがいいのでは?>

<普通になりたい! 僕はなぜ普通じゃないのか?>

 荒れていた時期は腹いせに家のドアを殴って貫通させたこともあった。最初に入学した私立高校は、1週間で退学した。

「学校って『読むか書くか聞くか』でしょう? じっと座っているのも苦手な僕にはマイナスの材料ばかり。打ち込んでいた野球部の部活が中3の夏に終わってからは、学校に行く意味がわからなくなってしまいました」

●「自分レポート」で理解

 その頃、つながりのあった言語聴覚士の沖村可奈子さんから、

「お母さんでも先生でも、自分以外に自分のことをわかってくれる人が増えたらいいと思わない? そのために、まずは自分が自分のことをわからないと伝えられないんじゃないかな」

 と助言された。そこで、自己理解と人に伝達するツールとしての「自分レポート」に取り組むことになった。母と対話しながらこれまでの歩みを振り返り、うまく文章化できない部分は母の助けを借り、自分でもそれを直して完成させた。タイトルは、「高校生(いま)だから、伝えられること」。

──「友だちはどれだけの努力をしているのか。自分の努力が足りないのか」と思ってずっと悩んだこともあった。テストが始まり、周りはカタカタと音を立て記述しているのに自分はただ、何をしていいのかわからなくなって眠るしかなかった──

 A4用紙2枚、全部の漢字にルビをつけて印字されたこのレポートは、沖村さんが仲間と共同で主宰するNPO法人、発達サポートネット「バオバブの樹」の会報に掲載された。さらにはSNECで成績の評価が受けられる「学習成果物」として提出したところ、学校からは最高ランクの評価をもらった。

「いちばん困っているのは本人です。だから自分がいまできるのは、困っている小さい子たちに、自分みたいな思いをさせないように、まわりの人に伝えていくこと」(郁也くん)

 最近では悩む親たちの相談役を引き受けたり、大勢の前で講演したりしているという。

暮らしとモノ班 for promotion
防災対策グッズを備えてますか?Amazon スマイルSALEでお得に準備(9/4(水)まで)
次のページ