アエラにて好評連載中の「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回は村田製作所の「ニッポンの課長」を紹介する。
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■村田製作所 広報室 企業広報課 ムラタセイサク君開発スタッフ マネージャー 吉川浩一(52)
直径12センチの玉に乗って、多彩なフォーメーションを組む10体のロボットたち。オリジナル曲に合わせてS字形やハート形に並んだり、手を上げたり、一糸乱れぬダンスを披露する。最後はほおを赤く光らせて女子らしさをアピール。2014年9月に結成された「村田製作所チアリーディング部」だ。
「この子たちのデザインは女性スタッフの意見を多く採り入れ、見た目もこだわりました」
開発マネージャーの吉川浩一は言う。1体は体重1.5キロ、身長36センチのかわいらしさだ。
福井工業高等専門学校を卒業し、村田製作所グループに転職した。05年、自転車に乗ってS字走行などをするロボット「ムラタセイサク君」の開発プロジェクトメンバーに。さらに08年、一輪車で走る「ムラタセイコちゃん」の企画開発にも携わった。
「その次」を会社から求められ、さすがに断った。セイサク君とセイコちゃんで、自らバランスを制御して動くロボットは極めた。
「もう、無理です。ネタないです」
「何でできないとわかるんや?」
上司と押し問答が続き、「そもそもロボットで何がしたいのか」をとことん議論した。その中で吉川の腑に落ちたネタがあった。自動車メーカーが発表するコンセプトカーだ。
未来のクルマは、通信モジュール制御で車間距離を保ち、渋滞緩和などを実現するだろう。そんな技術を複数のロボットで体現して、未来を感じてもらおう──。ロボットの先にあるビジョンを見据えた。
12年7月、「夢みたいな話をする人ばかりを集めて」開発チームを再編。社内にない技術は、ベンチャー企業や京都大学から開発協力も得た。2年2カ月かけて、女子たちは玉に乗って見事に移動できるようになった。
夢は、東京五輪でチアを披露することだ。
「この子たちを通して、エレクトロニクスの描く未来を世界に発信したい」
(文中敬称略)
※本稿登場課長の所属や年齢は掲載時のものです
(ライター・西元まり)
※AERA 2016年2月1日号