高級住宅街というイメージも強い、都内の山の手エリア。しかし、一口に「山の手」といってもその背景はさまざまだ。世田谷区と港区の場合はこうだ。
2010年代に入って、東急田園都市線の二子玉川駅周辺は表情を大きく変えた。タワーマンション、低層ショッピングセンターが建ち、楽天の本社も移ってきた。かくして出来上がったのが、ハンサムマザーとシリコンバレー風エンジニアが闊歩する街――という風貌だ。いまや「世田谷の顔」と言っていいのか。
いや、「乖離があるのではないか」と言うのは、ベストセラー『23区格差』の著者、池田利道さん(東京23区研究所所長)だ。クリエイティブに、自立した消費生活を送るニコタマの住民。これに対し世田谷区全体を見ると、ペットショップ、ベーカリー、ヨガなどの習いごと教室が多いのが特徴という。
「専業主婦がつくってきた街だからです。時間に余裕がある人たちがいないと、こういった消費空間は生まれません」
つまり、世田谷の基層にあるのは、“有閑マダム”の生活空間というわけだ。それを裏づけるのが、世田谷は居住者に占める短大卒女性比率(10年学校基本調査)が23区でトップという事実。かつてあった「短大を出て専業主婦に」という女性の人生の方程式を思い出させる。
その一方で、高齢者の就業率が23区中11位(10年国勢調査)と比較的高いのも特徴だ。半面、「シルバー人材センター」の登録率は同22位(12年)、趣味や仲間を見つけるための「老人クラブ」加入率は同21位(13年、ともに東京都福祉・衛生統計年報)と、ともに低い。
<周りを見渡せば、皆、悠々自適に第三の人生を謳歌している……。そんなことを考えているうちに、働こう、表に出ていこうとする気持ち自体がなえてしまい、あとは引きこもりの老後を送るのみ>(『23区格差』)ということなのか。