アエラにて好評連載中の「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回は国土交通省の「ニッポンの課長」を紹介する。
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■国土交通省 関東地方整備局 東京空港整備事務所 第二建設管理官室 先任建設管理官 長森雅彦(48)
携帯電話は24時間離さない。深夜に突然鳴ることもある。
「着信音が鳴るとドキッとします。何かあったのではないかって。携帯が怖いですよ」
そう言って長森雅彦は苦笑いする。台風や地震の際は携帯電話から次々と情報が入り、対応に追われる。
羽田空港C滑走路の地盤改良工事を監理している。幅60メートル、長さ3360メートル。その地下に約300本の穴を開け、ゲル化させる薬液を注入し、砂地盤を強化していく大工事。今年度は北側の500メートルを工事中だ。
作業は離着陸がない午前2時から朝6時まで。その間、長森は自宅で待機しているが、現場では何が起きるかわからない。地中から戦時中の航空機の残骸や自動車、タイヤなどが見つかり、工事を妨げることも。小さな部品が風で飛んで滑走路上に落ちようものなら、一大事だ。滑走路で認められる勾配は1%以内のため、ミリ単位で厳格に計測。薬液注入による地盤の変化に注意を払う。問題があれば、時間を問わず携帯電話が鳴る。
出身地である青森県八戸市内の工業高校を1085年に卒業後、コンクリート関連会社に入社した。そこで4年勤務したのち、旧運輸省に転職。港湾や空港の担当として、岩手・宮古港、羽田空港、茨城・鹿島港、横浜港、東京港などを回り、昨年、いまの部署に配属された。直属の部下は4人。そのほか外部の施工スタッフが数十人規模で働いている。
「運航に影響が出ないよう、安全・円滑に進めることが最も大事。現場担当の部下たちが気がかりなことがあれば、すぐ報告できるよう、話しやすい雰囲気づくりを心がけています。“飲みニケーション”もありますよ」
日本の玄関口であり、利用者数世界第4位を誇る羽田空港を守っているというプライドとプレッシャーが、常に隣り合わせ。地盤改良工事終了後は、東京五輪に向けての機能強化工事が始まる。
(文中敬称略)
※本稿登場課長の所属や年齢は掲載時のものです
(ライター・安楽由紀子)
※AERA 2015年8月31日号